菊の紋④

食後の訓練が終わり、再びへとへとになった体を、半ば引き摺り気味で部屋に持っていく。

ベッドに身を投げると、疲労が蓄積していた足が気持ち良い。

このまま眠りに落ちていく意識の中で、突然館内のサイレンが鳴り響く。


「Phantomは大講堂に集合、5分以内に集合完了」


「なぁぁぁ、休憩無しかよ」


Phantomと刺繍されたクロークを掴んで部屋から出ると、同じように多くの人が廊下を歩いていく。

私も同じ様に黒いクロークを羽織り、迎えに来たであろう都子に付いて行く。


大きな扉が開け放された部屋に入ると、ウラノスと聖冬が壇上に立っていて、その前には大勢のPhantomが綺麗に並んでいた。


子犬ぱぴーは私の隊だから、私の後ろに並んでて」


壇上のウラノスと聖冬の目の前に並ぶと、大講堂の扉が自動で閉められ、壇の後ろの壁に映像が映る。


「次のoperationを説明する。ここに集まった300名は、歪んだ常識を変えようと立ち上がった者たちだ」


「そう言うの良いから早くしましょう、では天皇陛下。この場はお願い致します」


割り込んだ聖冬に壇上から下ろされたウラノスは、傍らに立っていた、綺麗な翠色の髪をした女性に投げられる。

丁寧に受け止めながらも、鬱陶しそうに突き放し、ウラノスの居場所が無くなる。


壇上に立った天皇陛下は、全員を一度見渡した後、深呼吸をしてから言葉を発する。


「私たちは失ってやっと気付きました。あの日、世界は時間を止めたのです。まるで私たちが居た事を消したかの様に、愚かな私たちは失ってから気付く事しか出来ません。なら、次は私たちが勝ち取りましょう、あの異邦人たちが失って気付くまで。Today is the best day」


湧き上がる歓声を受けながら降壇した天皇陛下に変わり、ウラノスがもう1度登壇する。


「以上、天皇陛下の御言葉を心臓に刻め。皇御国すめらみくにの者として、恥じる事の無い戦いを。どんな時でも皇御国の民である誇りを手放すな、そして、夢を抱きしめろ。operation start」


一斉に講堂から姿を消していくPhantomたちを見ていると、都子に引き摺られて壇の脇に連れてかれる。

錚々たる顔ぶれが揃ったこの場で、唯一1人だけ場違いな気もするが、アメリカに一矢報いてやる為には、この人たちと肩を並べられる様にならなければならない。


皆誰かを待っている様だが、都子はウラノスと聖冬と、友希那は妃奈子と喋っていて、他の全員も誰かと話をしている。

少し居心地が悪いが、そう思い始めた時、丁度待っていたであろう人物が現れた。


「やぁ、待っていたよアンジュ。アルテマもお疲れ様だね」


「何言ってるの? これからでしょ」


「相変わらず頭も花畑だなウラノス、数日前振りだな。まさかイギリスすら巻き込むとはな、まだイギリスすら落ち着いていないのにな」


「まぁ、ここで日本に恩を売っておくのも悪くないんじゃない?」


「違いない、君は怖くなったねアンジュ。あんなに世間知らずの叛逆者が、今や制府を倒して国のトップか。私たちの象徴がこの世界には2つも有るんだと、本当に実感出来るよ」


「アンジュ、久し振り学校はどうなってる?」


ウラノスを退けて前に出て来た友希那は、アンジュと呼ばれた女性の手を取る。

困った様に立ち尽くす女性は私を見て、珍しいものを見たように眺めてくる。


「よぅ、エイルだ。よろしく」


「ふーん、私はアンジェリカ・レインワーズ。イギリス最高指揮官よ、約100年前のイギリス反抗を戦い抜いたから、きっとアメリカでも役に立つと思うわ」


「マジか、そりゃ頼りになるな。って初めてじゃないよな会うのは」


「そうね、でも落ち着いて話は出来なかったから」


「私は前ウラノスクイーンのアルテマだ、イギリス宰相をしている」


倉庫に居た時に見た少女はアンジュの前に出ると、友希那の手を掴み、手の中に何かを落とす。

それを受け取った友希那は真剣な顔に戻り、ウラノスの元に走って行く。


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