菊の紋③
都子との訓練が始まってから4時間、当てる技術は問題無いとされたものの、撃ち合いはまだまだと判断され、擬似的に作られた街の中で、72回目の戦闘がスタートした。
開始早々目の前を横切った弾丸が背後の壁に刺さり、そのズレを修正するように、先程まで居た場所に弾丸が降り注ぐ。
これは1回目から変わらない現象だが、ASCが弾き出した数値は、いつも4キロ先からの銃撃と表示される。
当然狙撃銃など都子が持ってはいない、物理的に不可能な距離にも関わらず、ここまで弾丸を届かせる。
「クソ、こんだけやっても疲れないのかよ。私はもうへとへとだっての」
屋根から屋根に走っている途中も、足下には弾丸が降り注ぎ、何も出来ない着地する瞬間を狙ってくる。
もう何度もされ続けているその攻撃を回避して、向かいの民家の窓を突き破って部屋の中に飛び込む。
もう1度走り出そうと顔を上げると、死角になっていた窓を突き破り、部屋の中に入って来た都子が発砲する。
空いていた部屋のドアを閉めて盾にして、腰のコンカッショングレネードをドアの隙間から投げ込む。
「同じ手は食らわねぇよ!」
「だから私は銃だけじゃない」
下からコンカッショングレネードの爆発音が聞こえ、目の前のドアがいくつにもバラバラになる。
その向こうには刀を鞘に収める都子の姿が見え、2度目の抜刀を既に終えていた。
「見えない太刀筋なんてあんのかよ」
「見えないなら見れば良いんじゃない? 目で追う内は無理かもね」
「訳わかんねぇよ、目で追う以外に何で見るんだよ」
「心でなんて寒い事は言わないわ、太刀筋を見るんじゃなくて、相手の動作の前を見るの。それと初動が見えれば太刀筋は自然に見えるわ」
「だから、その初動すら見えねぇんだっての!」
「なら筋肉の動きでも見てみれば、どの部分が動くかでも結構分かるわ。それが出来ないなら、近距離戦に持ち込ませない強さを持ちなさい」
言われた通りに動いた瞬間を見てみると、何となく来る所が見えた。
対応させて銃を盾にして防ぐが、空いた脇腹に今度は鞘が腹に入る。
「っっってぇ、なぁ!」
反転して後ろ回し蹴りで都子の後頭部を狙うが、当たったと同時に同じ方向に動き、完璧に衝撃を殺し切る。
回転した都子の刀が、壁を削りながら私の首を吹き飛ばす。
目の前の仮想の街が全て崩れ落ち、何度も見た何も無い部屋が映る。
大の字になって床に仰向けに倒れ込むと、左手に刀を持った都子が隣に立ち止まり、私に向かって水の入った容器を差し出す。
「ウラノスから夕食の招集が来たから、早く行かないと食べ物無くなるわよ」
「そんなに少ないのか? てかこんなに動いた後に食う気しねぇよ」
「早くして頂戴、私が食べられなかったら恨むわよ。びっくりする程ウラノスの手料理は美味しいんだから、機械が作るものより遥かに美味しいわ」
「さっきから言ってるウラノスって誰なんだ? 料理人か?」
「あぁ、斑鳩って言えば分かる? ってそんなの良いから行くわよ、戦争なんだからね」
「おい待てよ、まだ足に力が……待つ気ゼロかよ!」
先に部屋を出ていった都子を追って部屋を出ると、既にその姿は廊下には無かった。
だが奥の廊下から走って来た少女に付いて行くと、大きな部屋にはPhantom Princessのメンバーを始め、聖冬も机の上の料理を食べていた。
だが机には既に料理は無く、人混みの中から出て来た都子は、私を認めるなり睨んでくる。
どうやらあの様子なら、料理にありつけなかったみたいだ。
「エイルちゃん! こっちこっち」
都子を捕まえた斑鳩が私の下に来て、後に隠していた皿を差し出してくる。
綺麗な料理が盛り付けられた皿を受け取った都子は、顔を明るくさせて斑鳩に抱き着き、皿を受け取って机に走っていく。
「さぁ、エイルちゃんもどうぞ。私の料理は食べたくないかい?」
「いや、美味そうだな。なんか綺麗な盛り付けだし、ありがとよ。そう言えば斑鳩かウラノス、どっちで呼べば良いんだ?」
「どちらでも良いさ、皆は何故かウラノスと呼ぶけどね。もう友希那に交代したんだけど」
「友希那もそう呼ぶなら私もウラノスって呼ばせてもらうぜ、じゃあ食べてくる」
ウラノスから皿を受け取って都子の隣に座り、ナイフとフォークでゆっくりと食べる。
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