菊の紋②

「以上で終了します、では皆さん、抜かり無く」


「天皇陛下に敬礼」


斑鳩が発言した直後に斑鳩と聖冬が退室し、その少し後に友希那と妃奈子が退室し、この部屋には天皇陛下、鈴鹿、そして知らない人物が4人残っていた。

2人は大正浪漫の様な服を着た小さな少女、そして鈴鹿と同じ雰囲気を纏った、背の高い美人、その隣にはまた背の小さな少女がぴったりと付いている。


鈴鹿が部屋を出ようとした大正浪漫の少女を片方呼び止め、私の方を見ながら何か話をしている。

赤毛の長髪を揺らした大正浪漫の少女は、鈴鹿と話を済ませ、私に来るように手招きをする。


それに応じて大正浪漫の少女の前に立つと、目で追えない程の動きで銃を構え、何の躊躇いも無く引き金を引く。

火薬ではなく、音を立ててマガジンが床に落ち、弾丸の代わりに小さな拳が頬を掠める。


「初めまして、小さな小さな叛逆者さん。でも、この程度なら先が見えないわ」


「なんだよお前、やんのか」


「良いわよ」


「っしゃ! 行くぞ小さいの!」


少女が落としたマガジンを拾おうと屈んだ瞬間を狙い、人形の様に綺麗に整った顔目掛けて振り下ろす。

だが、その少女は地に着いていた私の足を手で払い、地面に打ち付けられる前に鳩尾に蹴りを入れられる。


伸びた足を掴もうと手を伸ばすが、顔を何度も殴打され、豪快に吹き飛ばされる。

完全に敗北を喫した私は痛みが過ぎ去るのを待っていると、頭の上で誰かが立ち止まる。


「大丈夫ですか? 口が切れてます、直ぐに治療するので待ってて下さいね」


「はははっ、やらかしたな火種。喧嘩を売る相手を間違えたって事だぜ」


最初に喋っていた着物を着ていた少女がどこかに走っていき、スーツを着崩した綺麗な女性がしゃがみ込む。

私の顔を反対から覗き込んだ女性は、長い髪を後ろに除ける。


「んだよ、天才集団が。溜まってた鬱憤が膨らんだじゃねーか」


「そうか? 結構すっきりした顔してんじゃねーか、どうだ? 圧倒的な強さのやつに負けた気分は」


「心底気分がわりぃ、でも諦めはつく。今になると清々しくなってきた」


「だろ? あの速いのがお前の教官だ、お前は運が良いな。天皇陛下直属の聖家当主様が師匠なんだからな、ほら挨拶しろって」


私を殴り飛ばした少女が差し出した手を取ると、腕を捻られて地面に組み伏される。


「痛てぇなてめぇ何しやがんだよ!」


「駄目ですよ都子様、怪我人をぞんざいに扱っては」


戻って来た着物の少女が箱を持ちながら、私の腕を掴んでいた小さな手を軽く叩き、丁寧に起き上がらせてくれる。

「これくらいの傷なら薬に任せましょう」と言って、切れた唇に薬品を塗り始め、箱を持って立ち上がる。


「舐めたら駄目ですよそれ、薬なので」


「あぁ、ありがと」


「私は聖家第54代目当主、聖 都子。貴女の教育係を任されたから、宜しく」


私の前に立って自己紹介を始めた少女は、何故かASCが読み取るプロフィールに、何の情報も映らない。

故障か確かめる為に周りの奴らも見ていくが、誰ひとりとして情報が表示されない。


「エイルだ、宜しく。何でプロフィールに何も無いんだ? ASCは設定なんて出来ないだろ?」


「はぁ、名乗って早々質問? 随分と礼儀知らずね、叛逆者なのにダミープログラムも入れてないの? ウラノスは何をやってるのかしら」


そう言って虚空のASCを操作し始めた都子から、メッセージとファイルが送られてくる。

それを開いてみると、プロフィールが全て書き変わり、見られた時用の偽のプロフィールが並び、ロックされて表示が消える。


「さぁ、早速だけど部屋を変えるわ。死なない様に頑張りなさい、逃げ出したらその足斬り落とすから」


壁に立て掛けてあった細い袋を持った都子は、廊下を歩いて3つ先の部屋に入る。

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