外の世界②

「ミネルヴァ1、こちらセイクリッド。状況を報告せよ」


「報告します、ピケット機のミネルヴァ2から入電。2時の方向と10時の方向から所属不明機接近、危険度B級。確認を求めます」


「任務続行」


「了解」


「直掩機は2手に散開、高速移動をして全ての機関銃から攻撃、出来るだけ数を多く見せろ」


「了解、オールウェポンズフリー、盆踊り」


斑鳩が操縦専用デバイスと触手の様に動く髪を繋ぎ、こちらに向かって親指と人差し指を何度か動かす。

それを見て何かメッセージを受け取った聖冬は、黒い革手袋を着けながら立ち上がり、後部のハッチの前まで歩く。


虚空のASCを素早く操作した聖冬の体に銃が現れ、最後にPhantomと刺繍の入った黒いクロークを羽織り、壁を4回指の裏で叩く。


「こちらセイクリッド、Phantom準備完了。目標地点通過カウント20、スタンバイ」


「ミネルヴァ1スタンバイ」


「ミネルヴァ2スタンバイ」


「ミネルヴァ7スタンバイ」


「ハッチ開け……カウント2、1、降下」


降下の合図と同時にハッチから飛び降りた聖冬と、その他の2人が機内のモニタに映し出される。


「エイルちゃん、掴まっといた方が良いかもしれないぞ。ロック、XASM-3零式発射」


斑鳩がパネルを両手でなぞると、レーダーに多数映る敵機に何本ものミサイルが空を滑っていく。

日本が約10年悩み抜いて作ったXASM-3でさえレーダーで捉えられないのに加え、斑鳩が手を加えたこのミサイルは、モニタに映し出された敵機に、回避運動すらさせずに消し飛ばす。


「やーりー! 見たかエイルちゃん、あれが回避不能の軍事機密だ」


「ちょっと質問良いか」


「大体の事なら答えるぞ」


「100年以上前の斑鳩とお前の姿が酷似してる、と言うか同じじゃね?」


「そうだ、ウラノスであった私が100年生きるなど容易いこと。私以外にも沢山居るぞ」


「常識考えろよ馬鹿、人間がそんなに生きていら……」


「未だ蔓延る歪んだ常識の中に私たちを押し込めるな、世界を変えるのなら常に狂気の上に立っていなければならない。それが出来ぬのなら私たちに嘆く権利は無い」


歪んだ常識が蔓延っているのは分かっているが、狂気の上に立つなどどうして良いか分からない。

それこそ天才の中でもひと握りの者だけしか不可能であり、才能すら無い私には嘆く権利が無いと言われている。


つまり才無き者の言葉は才が有る者に悪影響を及ぼす為、妬みから余計な口出しをして才能を潰すなという事だ。


「なら、才能が無い私らは何も出来ないってか?」


「そうだ。努力が才能に勝つ事は無い、才が無い私も痛感しているよ」


「納得行かねえだろ……そんなのよ。この場に居て良いのは私じゃなくて、あいつの方なのによ」


「妹さんか、今私も探しているが有力な情報は無い」


「私は妹を捜さねえと、そうだ……降ろしてくれ斑鳩。妹は今もどこかで震えて……」


「落ち着けエイルちゃん、次の手は打ってある。ファンプリは最早ハッキングせずとも全人類が見るようになった、そこでエイルちゃんが出……掴まりなさい」


突然鳴り響く警報と共にレーダーが表示されると、先程よりも遥かに多くの戦闘機に囲まれていた。

もうひとつのモニタにアメリカの空母が3隻映し出され、戦闘機が甲板から次々に発艦する様子が流れる。


迎撃の為に放っていたXASM-3零式も弾切れになり、第2波の攻撃によって高度が降下し始める。

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