外の世界①

海辺で拾われてから数分後、機体の中でデータを見て退屈そうに座る聖冬と、対照的に難しい顔をして座る斑鳩と、数時間前まで奴隷としてアメリカに尽くしていた私が、少し大きな机を囲んでいた。

偉大な人たちと同じ空間に居ると腰が引けてきて、子どもと遊んでいるドレイクと交代してほしい。


何とかして勝手に立ち上がろうとする自分の体を椅子に縛り付け、奴隷のリーダーとしてこの椅子に座らされている。

外の情報が与えられない奴隷には、他の国が今どうなっているのかも分からない。


「あの、聖冬さん。サイン頂けませんか? ずっと聖冬さんのファンで、特にThe Oneが好きなんです」


「そうなの? 確かにThe Oneのコードが出て来た時は、お風呂から飛び出て直ぐにメモしたわ。ASCじゃ多少のズレがあるから、ここはアナログしか無理だし」


「あとNecromanikaとか、Alice In Unreadableとか、あとSacred Song」


「沢山知ってくれてるのね、嬉しいわ愛佳さん」


「何で名前を……やばい幸せだわ、エイル私死ぬ前みたい」


「じゃあ次に出すまだ発売前のシングルのケースに、メッセージと一緒に書いておくわ」


未だにCDと言うのが残っているのは、一部のコレクターが好み、現実に形あるものとして人気が高い。

その中でも特に聖冬のはプレミアが付いて、オークションに滅多に出回らない為、全て最低でも150万の価格になる。


CDケースを受け取った愛佳は見た事も無いくらい喜んでいて、それを見た聖冬も微笑を浮かべる。

それを見ていたドレイクが子どもを体に乗せて走り寄って来て、聖冬もそれ見てもう1つ同じ様にして渡す。


「私も良いか聖冬さん、私ら奴隷にとって唯一の楽しみは、聖冬さんの曲を聴く事だったんだ」


「えぇ、勿論エイルちゃんにもきちんとあげるわ。ちょっと待ってね」


「聖冬、そろそろ真面目に考えてくれ」


ずっとデバイスのデータと睨み合っている斑鳩が、視線を外さずにそう言う。

聖冬からCDを受け取って礼を言うと、頭を軽くぽんぽんとされる。


既ににやにやが止まらない頬は緩み切り、いつも仏頂面の愛佳ですら笑っている。


「第三次世界大戦は地球が終わるんじゃない? 私たちは友希那たちが死んで今日まで戦争を起こさなかったけど、アメリカや中国に対してどれだけ対等になれるか。争って決めるのも手だけど」


「簡単に言うな、日本には圧倒的に物資が無い。中国を再び占領したとしてもアメリカが首を突っ込んでくる。そうなれば物量差は歴然だろ」


「大東亜、そしてロシアに話を持ち掛ければ大差ないでしょ? ロシアのアズュール、イギリスのUranos Queen、大東亜を纏め上げた天皇陛下。必ず味方になってくれるわ」


「遺産艦が不調なんだ、永く眠り続けた所為で本調子じゃない。自動修復にも限界があるんだ、今戦争を始めるのは不可能だ」


「私が居るのに負けるとでも思ってるの? 可能なら決行する、不可能なら断行するまでよ」


「それでは陛下の愛する民を殺してしまう事になるぞ……いや、聖冬が間違った事など無かったか。なら簡単か、私は聖冬に付いて行こう」


斑鳩は頭を抱えていた時の顔など微塵も見せず、見えているものに突き進む力強い瞳だけがあった。

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