ここから歩き出す①

突然意識が飛んだかと思うと、大量な瓦礫が積まれ、山のようになった場所の前に立っていた。

私の刻印に手を捩じ込んだ女性が隣に現れると、ドレイクが足下に転がされる。


「さぁ、僕がやるのはここまでだね。そっちの子は聖冬に頼んで正解だったかな、M029じゃ不器用で失敗しそうだし」


「てめぇ説明しろよ。おい、抵抗するなよ」


歩きだそうとしていた女性に銃を向けると、可笑しそうに口角を上げる。

頭に来て引き金を引きそうになったが、まだ聞きたい事が聞けてない為堪える。


「君が撃つとしよう、僕はその間に君を斬り伏せられる」


「物理限界考えろよ中二病野郎」


「その言葉は無知のゴミが発する言葉だよ、知らないが故に罵るような言葉に逃げる。実に滑稽だよ、ウラノスの世界に限界は来ないからね」


「やってみるか?」


「君が満足するなら良いよ。無知の君に何が出来るか知らないけど、思ってる以上に君は強くないんだよ」


引き金を引いた刹那、銃口から吐き出された弾丸が四方八方に弾け飛び、細腕では振るえない程の大剣が首に付けられる。

全く見えなかったそれは瞬きをしていないにも関わらず過ぎ去り、認識を許さない世界で終わりを告げた。


「勉強が出来る事を賢いと勘違いしている無知で愚かな世間一般に成り下がるか、本当の意味で賢いこちらに来るか、一度だけ選択の余地をあげよう。但し、僕の機嫌を損ねない方が良いと思うけど」


塵が風に攫われる様に消えた女性は、この場に完敗と言うあまりにも無残なものだけ残していった。

ドレイクが目を覚ますと、ふらふらと立ち上がって瓦礫の山を見る。


私と同じく呆然としている背中を蹴り飛ばすと、巨体に似合わず容易く吹き飛ぶ。

両手で受身を取った背中に腰掛け、瓦礫の山の反対に居る生き別れの妹を眺める。


奴隷としてどこかに売り飛ばされ、今はどこに居るかすら分からない妹が目の前に居る。

妹は手を伸ばして私を誘うが、こんな所で手を取った所で帰っては来ないだろう。


「そろそろ退いてくれエイル」


「なぁ、こいつは私の妹なんだけどさ」


「聞いてるか?」


「私は姉らしいこと何にもしてやれなかったんだ、一緒に遊ぶ事も風呂に入る事も泣かすのも怒らすのも、喧嘩すらしたこと無かった。だから笑わす事もさせてやれなかった、それでも手を取って良いなら私は取ってやりたい」


「俺にエイルの妹は見えないぞ、だってそこに居るのはリーシャじゃないか。リーシャ……リーシャ!」


勢い良く立ち上がって駆け寄ろうとするドレイクの腕を掴んで引き止め、引っ張り戻して座らせる。


「安易に動くなクソ野郎」


「リーシャが目の前に居るのに何でだよ!」


「こんな上手い話があるか? リーシャは死んだんだ、そして私の妹は行方知れずだ。何よりもこの場に連れてきたのは誰だ? 分からない奴らだろ」


「確かにそうだけど、反対には銃と瓦礫の山だけだ。行く方は確実に……」


「甘ったれんじゃねぇぞ、私らに資格なんて無いだろ。選んだのは銃の道だ、決して温かい場所じゃないんだよ。それを曲げるのはあいつが怒る、気弱だけど真っ直ぐなやつだったからな」


「……リーシャ、でも俺には決めれねえよ」


なかなか分からないドレイクに業を煮やして胸倉を掴もうとすると、妹だったものが傀儡に変わる。

ドレイクに見えているのも同じらしく、すぐに立ち上がって銃に走る。


転がりながら銃を拾い、反転して傀儡に鉄を叩き込む。

弾が切れるまで何度も撃ち、切れてはリロードして逃げながら撃ち続ける。


百メートル程走った所で漸く沈黙した傀儡の前で、へたり込んだドレイクの肩に手を置く。


「どんな綺麗事を言いながらも、私たちは結局なによりも誰よりも、自分が一番可愛いんだ。よく分かっただろ」


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