3章:契り
第33話:白色
第33話:白色
「トワ、本当に大丈夫ですか!?」
そんなに距離が離れていないはずのアレクが気遣わしげな表情でパントマイムでもしているかのように、トワには見えない壁に両手をついて呼びかけてくる。
「大丈夫やってっ。――とこっちからは聞こえんかったな」
すでに一度試して、
二人が今いるのはトワが『すごく怪しい洞窟』と命名した、封書のあった洞窟だ。
アレクには洞窟の入り口が見えず、入る事も出来なかったのだ。
「トワっ!」
「だから、大丈夫やって」
安堵の表情で抱きついてくるアレクに、トワはあやすように彼女の後頭部をなでる。どちらが年上か分からない光景である。
元々暇で
もっとも、アレクの中の
まぁ、
「それにしてもこの森にこんなものがあるとは」
ようやくトワから離れたアレクは、彼女には岩肌にしか見えない洞窟の入り口をぺタペタ触る。アレクから開放されたトワは両手を組んで首を捻る。
「上か横を掘って別の出入り口つくったら、アレクも入れるようになるんかな?」
「いえ、それはやめておきましょう」
アレクがトワの案を即止めた。
「何者がこのような仕組みを作ったのかはわかりませんが、尋常ならざるものであるのは理解できます。下手な事をしていらぬ災いを招く事になりかねないかと」
「国への報告はどうするん? この洞窟だけやのうて、
「しませんよ」
そう言って、アレクはトワの額にキスをする。唐突だったので、トワは目を丸くした。
「トワにリスクが及び行為などできません。それに守護兵隊として、国境特務員としての義務に関わる事とはいえ、このようなものの存在を報告して果たして国益に適うのかどうか。本来、私がそれを考えるような事ではないのは百も承知ですが」
「知らないほうが良い事もある、って事かな?」
「そうですね。戦争が終わり、今のブレシア王国は次なる戦争に備えて国力を蓄えているところです。ここの事を知れば、公的にはともかく、私的に動く者は出るでしょうね」
トワは首を傾げた。
「せっかく、戦争終わったのにまた戦争したいん?」
「国あれば、いつか戦争は起きる。国あれば、いつか内乱が起きる。古き賢者の金言です」
「なるほどな」
確かに
「では、帰りますか?」
「もうええの?」
「私にはただの壁でしかありません。見るべきものもないでしょう。あ、トワは中で採取するものはなかったのですか?」
アレクはトワからこの洞窟の中に、いくつか珍しい素材があると聞いている。
「植物系は畑で栽培してるし。他も豆腐
「では問題ないですね」
「せやな。帰ろっか」
「おお、早かったですな」
「師匠、お待たせしました」
「ただいま、タンクさん」
元々ここへはアレクとタンクの二人で来たのだが、彼は『すごく怪しい洞窟』への案内を固辞したのだ。
トワとしては、タンクも信頼のおける人としてカウント出来るし、一人教えるも二人教えるも同じかと思ったのだが。
「
その一言が山のように揺るがなく聞こえたので、トワはそれ以上誘わなかったし、彼にはアレクのようにトワの出自などは話していない。
タンクはトワが今着ているものに視線を向け目を細めた。
「似合っておりますな」
「そうやったら嬉しいなぁ」
白い皮鎧。サイズと色こそ違えどデザインはアレクの赤い皮鎧、タンクの黒い皮鎧と同じものだった。
それは残ったイノシシの皮をつぎ込んでトワが
デザインの変更は出来る。ただ、変更後のデザインが
残り少なくなったイノシシ皮をアレクの鎧と同じものにしようと決めていたトワは、確実に
確信が持てたのは、アレクとの初めて夜を過した日だった。
本当はおそろいの赤色にしたかったのだが、アレクの皮鎧の赤には国境特務員であるという意味があり、潔く諦めて白色に染めたのだ。白にした理由は材料の問題で染料が赤と白しかなかったからだ。染めなかった場合は皮の地の色になるが、それは他のスピアーズ守護兵隊と被るので、何か嫌だったのである。
ちなみに、タンクの皮鎧の黒は本人の趣味で、何か意味がある訳ではない。
「じゃ、タンクさん。はじめよっか」
「トワ様はおつかれでは? 少し休憩してからでも良いのでは?」
元々タンクが
「タンクさん待たせてたし。それに
この森ではインドア派などと言っていられない。畑である程度自給が可能とは言っても、水やトラップにかかる獣、新たな素材の探求と、トワの森の探索は今も続いている。
そして、それ故に万が一の事態に備え、
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