第2話 獣が見続ける物

そこには平等はなかった。平凡はなかった。

それはどれも華やかで醜く、結末はいつも決まっていた。

そして、結末を迎えた物語たちはこう纏められた。

【過去】という物に纏められた。だから人は過去に逃げるのだ。都合の良い逃げ道だから。

けれど、人々は止まりはしなかった。前に進む以外になかったからだ。

そうして、また物語は進むのだ。ページをめくるように変わるのだ。

そうした中で突然、その物語は停滞した。ページが無くなったのではない。手を止めたのだ。

読者の手が止まってしまったのだ。それは全てに反した行為だと知っていながら。

しかし、『神』が文句をつけても物語は進まなかった。そして、【それ】が産まれた。

【それ】は自らを獣と呼び、停滞した世界を進めて言った。

しかし、獣は世界なんて見ていなかった。獣は【過去】を見ていた。才能が変えていった過去、才能が壊した過去、そして才能によって変えられる天才を見ていた。


そこには、ある少年と少女が居た。その少年と少女は画家を目指していた。

少年には全ての才能があったが、少女には才能がなかった。秀才止まりだった。

しかし、少女は諦めなかった。少年の隣に立っていたかったからだ。

少女の努力は少年の才能に届いていた。だからこそ少年は努力をした。少女が自分を認めてくれるように。

いつの日か少女の努力は少年に届かないと言った。少女は悟ったのだ。自分には少年の隣に立つ事ができないことを知ったのだ。

だから、少女は少年に言った。自分では貴方には不釣り合いだと、才能には勝てないと、そう言ったのだ。しかし少年はそれを認めなかった。認めたくなった。しかし少女は少年の側を離れていった。

その日から少年は壊れていった。親から才能を認められ画家になったがそこに認めて欲しかった人は居なかった。もう、姿も見かけなかった。

そこからの少年の人生は才能に振り回されていた。周りは少年を天才として利用していった。

周りの人達は少年を利用する口実に適材適所と言い、使い潰していった。

そんな時、少年は少女と再会した。少年は少女に変わらず接して欲しかった。けれど少女は少年にこう言ったのだ。


────天才様は私とは違うね────


少女が言ったその言葉は少年が言ってほしくなかった言葉だった。

そして、少年は自分を恨んだ。自分の才能を恨んだ。そして恨みは才能を逃げ道にした人類になった。

そして、少年は天才になった。人には理解されなくなった。理解されるのを拒んだ。

天才はある理論を作り出した。『神』と『世界』に反逆する理論を作り出した。

天才はそれを成功させ、世界に配った。そして世界は変わることをやめた。停滞を良しとした。人は変わるのを怖がった。変えられるのが怖かったのだ。

そして、天才は『神』と『世界』すらも拒絶したのだ。そして、『神』と『世界』は人類を変える獣を産み出したのだった。


獣は天才の過去を見ながらこう思うのだ。素晴らしいと、美しいと。

そして、獣は過去を見続ける。天才が【望まない】停滞を終わらせながら今日も獣は天才に憧れる。

───その日、獣は『神』と『世界』にこう呼ばれた。『天才』を壊す『天才』と。だが獣は気付かない。人々が望む物を作れる者が天才だと思うから───

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