異世界相談室

@lusya

自分がしたいこと、すべきことについて

人生とは辛苦の連続である。楽しいこと? あまりないだろう…だがそれでも

人は生きていく。


何故か? それは人それぞれ何かしらやりたいこと、やらなきゃいけないこと

単純に死にたくないなど理由は様々だろう。


生きていれば必然的にそういった悩みや迷いといったものが生まれる。


ここはそう言った物を少しでも軽くする為の相談室だ。

解決はできないかもしれないが相談室の主人アレンの失敗例など、アドバイス

を聞かせ解決への手助けがメインの所となっている。


異世界ラビールと呼ばれる地のフロンテと呼ばれる街に店を構える。そして

何の因果か地球にも扉が現れそっちからも客が来る。人呼んで異世界相談室。


人間から亜人、魔族、悩みのある者なら何でも来たれの場所だ。


そうして今日も悩みを持つ者が来店する。






「すいません。ここ異世界相談室、フェズリで間違いなでしょうか?」



そう言って入ってきたのは、袖の無いボロボロの辛うじて服と言える物を纏った

人物だった。体中には戦闘の後なのか傷があちこちにあり刺青のような模様も

見える。そして腰には剣がありとても堅気の人間には見えない。言うならば盗賊か…


堅気じゃない=イコールヤバい奴。もしくはただのバカか。

世間での認識はこんなもんだろう。


だが、俺は違う!

堅気じゃない奴はヤバいなんて言葉ではとても表せないくらいヤバい。


だって、ナイフをベロでじゅるりと舐めたり、一人どっか向いて独り言を言って

たり、薬やって100m5秒で走ったり…



これらの事からも分かるように正直関わりたくない。だって怖いもん。



しかし、これも仕事だしやんなきゃシルヴィに怒られるからな…(;´д`)トホホ


そんなわけで粗相のないように丁寧な対応を心掛ける。お客様は神様だからな。



「ようこそいらっしゃい下さいござりました、異世界相談室フェズリへ」



ビビってしまい何を言っているのか訳の分からないセリフを口にするアレン。

我ながら気持ち悪い言葉使いだと思いつつも身の安全のためにと何とか顔には

出さずに堪える。そんな事を考えながら客に椅子に座るように促す。


8畳程度の部屋の中央に丸いテーブルが置かれ、テーブルをはさんで椅子が2脚程

ある。後ろには本棚は置かれもう一つドアがある。とても殺風景で暗い部屋だ。


相談室なんて耳障りの良いことを言っているが実の所占いの館とかそういった結構

怪しさ満載の部屋となっている。



「初めまして。私はここの主のアレンです」


「は、初めまして私はジャリッシュです」



緊張しているのか厳つい顔を薄っすら赤く染め、指と指とツンツンとつつき合い

ながら気まずそうに話す。


やめてほしい、大のしかも厳つい大人が乙女のような仕草…吐き気が…

桶プリーズ!


何とか吐き気を耐え営業スマイルで対応するアレン。


そんな緊張せずにとリラックスを促し、この店のもう一人の店員こと妻のシルヴィにお茶を持ってきてもらおうと奥の扉に向かい声を掛ける。


その間に少しでも話を進めておこうとジャリッシュの名のった男にどんな悩み

なのかを問うことにする。



「あのですね私、今すごく悩んでるんです」



だろうな。悩んでなかったらここにはこないだろうよ…


内心で突っ込みつつそんな事はおくびにも出さない営業スマイルで頷く。



「突然ですが私って職業何してるように見えますか?」



本当に勘弁してくれ、何で「ねぇ、私って何歳に見える?」みたいな恋人同士の

会話みたいな事せなあかんのや…つーか、さっさと相談しろや。

おっさんがもったいぶったって、かわいないねん。



「えぇ…何でしょう、ね~」


「分からないんですか?」



「ヒントあげちゃうぞ♡」みたいなことを言いながら椅子から立ち上がり

ヒントはこれと言わんばかりに剣と刺青、服をめくり筋肉をアピールする。


目がぁぁ 目がぁぁぁー 


空から少女が落ちてくる某アニメの大佐のような事になるアレン。


何故に相談にきた客のそれも男の裸を見せられなきゃいけないんだよ。

今夜シルヴィに癒してもらおう。


そう心に誓う。



「と、盗賊…ですか?」



違ってほしい、こんな気持ち悪い漢女みたいな盗賊はイメージが崩れると思いな

がら答えを口にする。すると「正解よ♡」と投げキッス…Deathキッスを放って

くる。


〇Tフィールド!


結構な頻度で破られているイメージのある某アニメのフィールドを展開しようと

するが、出るはずもなく残り数十㎝の距離までDeathが迫ってきた時、キスと

アレンの間に手を入れ♡を叩き落す。



「あら、この人は私だけの者よ」



そう言って現れたのは先程持ってきてくれとお茶を頼んだシルヴィだった。

見ると左手にはトレーを持っておりそこに木のコップが2つ置かれている。

それらを受け取りつつ礼を述べる。



「シルヴィ、助けてくれたのはいいんだけどさ…」



そう言うとアレンはシルヴィの足元を指で指し示す。


「あら!」と可愛らしい声をあげる。そこには足元に渦巻く黒紫色の粒子が存在して

いたのだ。



「夫の貞操のピンチの予感がしてついね…」



てへっ!と可愛らしく首を傾げ誤魔化すシルヴィだったが実年齢を知っている者が

この光景を見たら「おばはんが何しとんじゃワレェ!」と言った反応を示すだろう。


しかし何事にも例外はつきものでシルヴィの実年齢を知っているアレンは訝しむ顔

や難色を示す事はしなかった。これが夫婦の愛か…

ちなみにアレンは人間で見た目20の普通の人物だ。



「我の前でいちゃつくんじゃねぇぞコラァァ」



いきなり椅子に脚を乗せ主にアレンに向けて調子乗ってんじゃねーぞと威嚇する

ジャリッシュ。



「ひゃ、ひゃい、しゅいましぇん…」



いきなりの出来事に訳が分からなかったアレンだったが、目の前の奴はヤバい奴

だと言う事を思い出し取り合えず謝る。


それで機嫌を直したのかはしたない真似を…と言いながら頬を染め椅子へと座りなおす。



「それで私、今盗賊の首領をさせてもらってるんですけども、今付き合っている

 彼が国などの警備を単横する方で盗賊なんてのは絶対に許せない!って言うん

 です。私は彼の事が好きです。でも同じ盗賊の仲間の事も好きでどっちを選べ

 ばいいのか分からなくなってしまって…」


「れ、恋愛相談かなぁ~」



尻すぼみに声が小さくなっていく。一件すると恋愛相談のように聞こえるが中身が

恋愛相談と言っていいものか、かなり物騒な感じだ。



「あら、恋のお悩みね。素敵ー」



女子高生のような声をあげ食いついてくるシルヴィ。

部屋の角に幾つかある椅子を一脚持ってきてじゃリックの隣に置く。そして

どんな人ー? 顔は? 性格は? 年収は? と根掘り葉掘り聞き始める。



このどこに素敵な要素があるのかまったくもって理解できない。

だって盗賊なんて悩む必要なくね? 物盗んだり人殺したり碌な事してねぇー

じゃん。そんなん悩むまでもねぇ~事だろーがよ。つーかこの漢乙、今彼って

言ったよな。薄々思ってはいたけどやっぱりホモだったんかいー!



お客は神様だとか言っておきながら頭の中では散々蔑むアレン。


だが、ここは異世界相談室。相手を蔑むのでなく、悩みを聞き少しでもそれを軽く

する為の場所だ。


そう思い直し解決への道しるべを示しにかかる。



「えっとジャリックさん。あなたは仕事か恋どっちを折るかお悩みとの事ですが、

 自身ではどちらの優先させるべきだと思いますか?」



問われたジャリックは答えに言おうとするのだが、それが正しいのか迷い

引っ込めてしまう。それを数回繰り返す。


その様子を見てアレンは「ちょっと昔の話をしましょうか」と自身の過去について

語りだす。



「本当なら恋愛の話の方がいいんでしょうけど生憎とモテなくて…だから今回は

 後悔のない選択について話します」



ジャリックとシルヴィが興味深そうに聞き耳を立てる。



「子供の頃から叶えたい夢がありました。自分の飲食店を持ちたいというね。

 でも大人になるにつれて生活する為にとか周りの目とか…要は安定性を求めて

 それを理由に諦めてしまったんですね。」



何も無い所へ視線を向け過去を懐かしむようにしながら過去の話をする。



「それから時が経ち、順風満帆な生活を送っていました。でも偶に思うように

 なったんですよ。今の生活はそれなりに安定していて生活も満足にしていけて

 いる、でも生きていて楽しくはないなって…」


若干シルヴィが頬を膨らませて拗ねているような感じに見えたが客が優先なんで

スルー。お客様は神様だ。



「それで、どうしたんですか?」



ジャリックが早く話の続きを聞かせろと言わんばかりに催促してくる。

落ち着いてくださいと手で宥めながら続きを話す。



「まぁ、もちろん今の安定性を捨てる事への恐怖や不安はありました。クサい

 セリフではあると思いますが一度きりの人生やりたい事をやりたいと思いま

 してね、思い切ってそっちの道を選び仕事を辞めると言う選択をしました」


「それで、夢はかなったんですか?」


「まぁ、実の所叶ったかどうかって言われれば100%成功と言えるほどの成果はな  かったと思います。偽善と言われるかもですけど、それでも夢を選んだ事を後悔 したりはしませんでしたね。結果がどうであれ」


「そうですか…」



ジャリックは俯き必死に答えを出そうと考え始める。



「どっちがいいかなんてのは人によって違いますし、選んだ未来が必ず成功する

 なんてのは理想で幻想で夢想だ。何をしたいのか、それを考えた時に死ぬとき

 良い人生だったと言える選択をすることをすることこそが後悔の無い人生だと

 私は思います」



未だ考え中のジャリックへ向け時間をかけてもいいから答えをだしましょうと

声を掛ける。




それからお礼を言いジャリックは異世界相談室フェズリを後にするのだった。


客が帰ったあと店の看板をCLOSEと変え再び椅子に腰を下ろすアレン。



「さっき話したのって地球って所であなたが経験した話?」


「まぁ、夢を追いかけたは良いが成功なんて相姦単位掴めるものでもなかったって

 夢見がちな少年が現実を知って一歩大人になったって話だ」



「考えの甘さをしったよ」とシルヴィアに向けて語る。



「後悔してるの?」


「後悔してると言えばしてるし、してないと言えばしてないな」



頬杖を付きアレンを見つめるシルヴィア。そうして先程の言葉の意味を

確かめようとする。



「嘘を言ったの? 関心しないわね」



客商売で嘘をつきバレたら信用が損なわれるだろう。批難の目を向けてくる。



「人生、きれいごとだけで生きられるほど甘くはないんだよ。寧ろ嘘やハッタリ、

 そういったものがあるからこそ世界は回る」



世界なんてのは嘘や欺瞞で満ち溢れている。どんなに努力しても敵わないものは

あるし叶う奴は叶う。


そんな世界だからこそ悩みが生まれ人は日々苦悩する。



「そもそも、あんたが俺をここで働かせたんだろ。嘘でも作り話でも人の悩みを

 解決する手助けに、指針になればいいんだよ」



異世界相談室フェズリ。今日もこうして客の悩みを聞きアドバイスを与える。

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