6 ココロ捜査《後篇》

「単刀直入にいうと、クラブのことなんだよね……」

「え?」

「は?」

 二人の声が重なる。何だよ話が違うじゃねえか、倉本美咲。

「家族のことがどうとか、そういう話じゃないの?」

「んとそれもあるんだけど、今はいいかなって」

 頬杖をつきながら、美咲が寂しげな口調で言う。だが、その表情は読み取れない。悲しんでいるのか、イラついているのか、はたまた本当に何もないのか二人は識別できなかった。

 数秒の沈黙をやぶったのは、小春だった。

「分かった」

「ありがと。そう言ってくれると助かる」

 二人から笑みがこぼれる。何を抱え込んでいるのかは全くわからないが、今は触れないでいくのが、最善だと思った。

「で、さっきの話に戻るけどクラブのことで悩んでいるんでしょ」

「うん」

「分かりやすく言えば?」

 美咲の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。混乱していると、左側で静かにしていた、湊からため息が聞こえてきた。

「小春、それじゃ分かんないだろ。質問の意図が」

 湊が言う。納得したように、小春から「あー」と声が漏れた。

「喜怒哀楽のどれかで答えてってこと。私たちなりの聞き方なんだけど、初見じゃ分かるわけないよね」

「哀」

「ん?」

「今の質問、圧倒的に哀」

 美咲が上目遣いでこっちを見てくる。若干ぶりっ子に見えるが、清楚な顔面とは釣り合わない。

「具体的には」

「うわ。そこ一気にいくんだね」

「相談してきたのはそっちだろ」

「みーなーとー?」

「はいはい、分かりましたよ。話に突っ込んでくるな、だろ?」

 面倒くさそうに言いながら、湊は部屋を出ていく――――とまではいかない。デリカシーよりも好奇心が勝る。体を180度回転させ、頬杖をついた。美咲はというと、少しいらついた様子で小春をながめていた。

「2組の堤さんって知ってる?」

 不意に美咲が口を開いた。周りが静かなせいか、余計にはっきり耳にとどく。

「ああ、ボブヘアに眼鏡のやつだろ」

「名前わからないの、湊」

「だって、あいつの特徴でいえばそうだろう」

 ほんとにデリカシーがないやつだと思いながら、小春は頭をめぐらせる。

紗矢つつみ さや――。

たしか三年のときに同じクラスだったはずだ。決して目立つタイプではないが、クラスメートとは明るく接していて、特に無視やパシりなどにも関わらなかったはずだ。

「堤さんが何か」

とたんに美咲は目をそらす。話しづらいのかもしれない。

「サボっているの。最近」

「堤さんが」

「そう」

「具体的には」

さっとポケットからメモ帳とペンを取り出す。

「ここ最近は放課後練にきても、同じパートの人としゃべってる」

「やってんな」

いつのまにか、湊がさっきの体勢にもどっている。

「その喋ってる人って同じ6年か?」

「うん。梶本さんとか、安城さん」

「教室でやるんだよな。パート練とかって」

「そうだけど、それが何?」

美咲は首をかしげる。小6にもなって、サボるということがよく理解できていないみたいだ。いや、言い過ぎか。

なんだかんだ言って、一番、外見でも、内面でも成長するのは小学校だと小春は思う。低学年のころは、それはそれはまだ顔も幼いし、背丈も小さい。だが中、高学年になるにつれ、背はぐんぐん伸びるし顔も大人っぽくなってくる。美咲がいい例だ。

内面は複雑になる。宿題を前日に終わらせるようにしていたのに、当日にやるようになってしまったり、先生への愚痴をこぼしたり、体型や性格を無理に変えようとしたりと、変わり方がいちじるしい。当然、その中でいざこざが起きるのは当たり前だ。

「何人いるんだ。堤のところは」

「それは分からない」

「なんで」

美咲があからさまに不機嫌になる。

「パートごとに分散してるから」

「だいたいでいい。具体的な数字が出ないと話が進まん」

こちらも不機嫌な湊が言う。キレてるところはほとんど見たことがないが、近寄りがたいオーラを醸し出している。

「…………4~5人くらい。多いとこはさらに分かれる」

「堤と同じパートは」

目を大きく見開く。美咲はさらに舌を噛んで貧乏ゆすりをはじめた。いらだちを紛らわそうとしているのか、動きが落ち着かない。

「四宮、武田、梶本、安城」

念仏を唱えるかのごとく無表情で言った。

「全員6年か」

美咲が首を縦にふる。湊は反応をみて、親指を二、三度後ろにふった。『帰ろう』ということだろう。

「じゃあそろそろ帰るね」

「うん。また」

部員の名前を読み上げた時とは、全く別の表情で美咲が返事する。振り返ると湊の姿はなかった。代わりに家の外から「また来てね~」と朗らかな声が聞こえる。小春はゆっくりと帰路についた。

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とある小学生たちの悩み解決日誌 麦直香 @naohero

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