第11話
鉄格子を開けるとそこにアッシュは…いなかった。
待ちくたびれて帰った?いや、まさかそんなことはないだろう。
あれだけ結果を楽しみにしていた男だ。
だが店内を見回してもいない。そうなると、まさか外だろうか。
折部は入り口のドアを開けて外へ出るため階段をくだる。
すると、店の前から少し離れたところにアッシュはいた。
しかし前に見たように雨に打たれて全身びしょ濡れ…ではなく、
誰か他の人間がアッシュを傘に入れているようだ。
折部はすぐさま駆けつけようとしたがその二人の様子に立ち止まった。
何か話し込んでいるようだが、まずあのアッシュが話し込んでいる?
それもいつもどこか恨みと下卑を含んだ表情のような彼がまるで普通の人間の顔で。
ちょっと失礼かもしれないが折部にはもの凄く様子が違うような表情に思えた。
相手は、外国人?目鼻立ちは整っているが日本人のソレとは違う。
髪色は脱色したような銀髪、背もアッシュとそう変わらぬ長身である。
服装からして育ちはよさげである。
なら尚更、アッシュと会話をする接点が思い浮かばない。
折部はその二人の様子を見ているとアッシュに猜疑心が湧いてしまった。
いろんな可能性が頭に浮かんでいく。
それはとても先の不安を煽るようなものであった。
聞けばいい話なのに…アッシュの見たことのない表情のせいで
それはだんだんと心の中に積もっていく。
「(はは、俺は多分今すごくひどい顔をしているだろうな)」
自分で見えずともこんな気持ちでアッシュと会ってしまってはまともに話せない。
話は後日でもいいだろう。なんらかの方法で連絡はとれると思う。
いやもしアッシュがなんらかの敵との交友を持っていた場合受け止める自信はない。
そうだった場合、最低もう会うことはないだろうなと思う。
二人に見つからないようにこっそりとジュアンのある通りから逃れ、
ちょうど発車するところだったバスに乗り自宅のある雪見市へと戻っていく。
家に帰ってきてベッドに倒れ込む。
白い天井はあいかわらず無菌室に折部の心を変えさせる。
どうして自分はアッシュと会わないだろうなと思ったのだろう。
ファストフード店でのあの不可解な行動?
それとも襲撃時に見た彼があの死体の山で飯を食っていた凶行?
…彼と、出会ってから、大きなことに巻き込まれっぱなしで怖くなったのか。
どれでもいい。
でも真実を見ずに逃げてきてしまいあまつさえ彼と会うことをやめ保身を考えた、
それはこの白鐘帯という地帯で9割は存在する
『抵抗をやめガキの奴隷と化した市民』と同じことをしようとしているのだ。
単なる非力な市民でいたかったとは今更思えないはずなのになぜ見捨てようと考えてしまったか。
これからも巻き込まれていく…もうそれでいいじゃないか。
頭のなかにあまい睡魔が舞い込む。
目を閉じてただその感覚を受け入れる。
雨足が少しずつ引いていく音が、耳に入ってくる。
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