第7話
本人もよく分からないまま折部のグループの謎の沈黙と説明は終わった。
少し遠くから目を細めて伺うと、
やはりアッシュ達のいるEグループや他の所も退出を始めていた。
部屋から出てきてしばらくは考え込んでいたらしいアッシュは
手にしたビール瓶の中身をかきこんでそのごたごたをなきものにしようとしている。
難しく考えるのは嫌いらしい。
しかし他グループになってしまったアッシュを今気遣うのも不自然だ。
最初から繋がりを持っているとしれたら
プラスはなくともマイナスこそ起こりうる。
初っ端からマイナススタートは形はどうあれ避けていたい。
きっとそれはアッシュも理解しているだろう。
再び同じところから出てきた夜々に顔を向ける。
どうやら自体を飲み込めてないのは彼も同じらしい。
周りの人がほとんどいなくなったところで目くばせをして
リノンが前に使っていた従業員用のトイレの方へ誘導した。
ちょっとせまいがここなら距離があって壁もある。
他に見られることはないに等しいはずだ。
夜々が入ってくると同時にトイレのドアを閉めて鍵を閉めた。
「お、折部さん。僕なにがなんだか…」
「俺にもよくわからんかったよ…しかしこのシステム、まるで。」
折部はアッシュの言っていた言葉を思い返す。
5大都市伝説…。
ゴーリーがある特定のイドラの構成員の話となると
他のカタカナ名義も同じように構成員の名前を指している。
だが1つだけ毛色の違う言葉があったはずだ。
「狼の食卓…だったか?俺はよく知らないのだけれど。」
「それってイドラ都市伝説の…?」
あの点呼用の音声が狼の遠吠えという点からすると考えられる。
「ふうむ、なかなかめんどくさい話になってきたね。」
折部は自分の腕時計を確認した。
時間は午後19時前。
外は結構暗いけれどまあ、イドラ構成員の夜々なら大丈夫だろう。
顎に手をあてたまま夜々のほうに向き直りにっこりとする。
「お腹、空いたね。」
「ハ…?折部さんなに言いいだしちゃってんの…?」
「いや〜もう晩御飯どきなんだよね。しかも頭使ってしまったし。」
「ま、まああんな話されて疲れたのは僕も同じなんだけどさ…」
「この後は何か用事あるかい?なければご飯でも付き合ってくれないかなあ。」
夜々は先程から突拍子もない平和節にきょとんとしている。
折部はというと変わらぬ腑抜けた笑顔で腹の虫を鳴かせている。
この異常になったジュアンでは余計異常さも感じるけれど。
「べ、別に用事はないよ。でもお金ないし…」
「ふふふ、何が食べたいんだい?社会人のおじさんがおごってあげよう。」
そこまで言うと折部は得意げに夜々の頭をぐしゃっと撫でた。
夜々もそんな様子の折部と意図に気づいて手を振りはらったあと。
数十分後、二人はファストフード店にいた。
折部はもの珍しげにハンバーガーを口に運んでうれしそうな表情になる。
一方の夜々はポテトをつまみながらストローに口をつける。
いつまでたっても話を始めないまま数分がたっている。
「ねえおっさん、なんか用があったんじゃないの?」
「まさか夜々がはんばーがー屋さんを選ぶとは思ってなくてねえ。
もっと高いものねだってもよかったんだよ?」
「高校生の舌に何を期待してるわけ…食べたことないの折部さん?」
「ないねえ、これはすごい美味しいねえ。」
ニコニコと満足そうにあっという間に平らげてしまった。
この細身な割によく食べるものだと息を漏らす。
近くにあった紙ナプキンで口元をぬぐった後、ポテトに手を伸ばす。
「ほんとにめちゃくちゃ食べるねあんた…俺の分も食べます?」
「ん!いやそれは育ち盛りの君が食べなさい!」
「はあ…あそ…違うんだって、だから何か…」
「イドラ5大都市伝説って、前聞いたけど。」
折部が口調も変えぬまま、ポテトを口に運びつつそうこぼす。
それを聞いた夜々は一瞬ぼんやりとした後、あぁと漏らした。
「なんか俺もちょっと前から知ったんだけどなんか有名らしいよ。
ただでさえ都市伝説みたいな集団で都市伝説とか浮きまくりでしょ。
ていうかさ折部のおっさん。」
折部のほうにずいっと顔を近づけて訝しげに見つめる。
長い睫毛を持った瞼が一度ゆっくりと瞬きをした。
これが地毛なんだったら全国の女子のヒンシュクを買いそうなものだけれど。
夜々はじとーっとした目で折部の表情を観察している。
折部はというと塩のついた口元そのまんまの品性のない表情。
「う〜ん…あの金髪のオッさんが言ってたじゃん?
あんたがその都市伝説のゴーリーだって。まじなの?」
「よくわからん…けどまああいつが言うならそうなんじゃないか?
うさぎちゃんのぬいぐるみの頭を持ってるっていうのは本当だけどねえ。」
「え、ええ…でもさゴーリーってもっと陰惨なイメージっていうかさ…
折部さんみたいにのんべんって感じじゃないと思っててさ…。」
折部は口元の塩を拭って首を傾げ、不服だと言わんばかりだ。
「ていうかさ、都市伝説のこと超本人なのに知らないんスね。」
「そうだなあ…聞いたこともなかったなあ…」
「まっ、おっさんの言い振りだと折部さんはイドラについては
僕ら未満の知識しかないし他のメンバーと接触なかったみたいだしね。
そもそも同業者がいるっていうこと知らなかったんでしょ。
だからこそゴーリーっていう桁外れた伝説ができてしまったのもあるのかもね。」
夜々はポテトを全て口に運び、もう一度ジュースを口にした。
そしてそれらを一気に飲み干すと一度座り直した。
「前にその都市伝説について話してとき、狼の食卓って言ってなかったかな。」
「そうだね、都市伝説の4つ目のことでしょ。」
「俺はまずその都市伝説の内容を詳しく知らなくてね…
もしよかったらその全容を教えてくれないかな?」
「いいよ、ていうか俺も興味本位で聞いてただけだからアテになんないかもだけど。
1つ目…『ミラー』。」
折部が買っていたナゲットを1つとってケチャップにつけた。
2セット買っていたのだからちょっとくらいもらってもいいだろう。
実際折部は話に夢中で全然気にしてないし、元来全然気にしないだろう。
「ちょっと前に斑鳩サンがかいつまんで言ってくれたけどもう一回まとめるね。
ミラーっていうのはこのイドラの総帥だっていう噂の人。
まあ実際…不特定な集団のイドラを束ねてる人がほんとにいるのか知らないけど。
でもあの説明でイドラ本部っていう名前が出ちゃった以上ほぼ確定だよね…。
第一僕らがなんの目的でなんで殺しの指令を出されてるか理解しきれないし、
イドラ5大都市伝説の筆頭にふさわしいイドラ最大の謎ってとこだよね。
噂だともう亡霊と化したミラーが僕らの背後から…おお、こわっ!」
「ほんとにそうだとしたらぞっとするけど納得もできそうだねえ…」
折部がいたずらそうに笑ってポテトを口に運ぶ。
「これが1つ目。」
夜々はナゲットを口に放り込むと、新たにもう一つナゲットをつまんだ。
先ほどとは違いナゲットにバーベキューソースをつけた。
「次、『ジョーカー』ね。
その名前の通りそいつは、『イドラ』であって『イドラ』ではないんだよ。」
「んん?よくわからないね。」
「物凄い実力を持ってるらしいんだけど、イドラ構成員ではないらしいよ。
聞いた話ではそいつのところには『通知』がこないんだってさ。
ほら、手紙とか電話とメールとか…ラジオもかな?」
ターゲットを知らせる通知手段がないということか。
だがそうなるとジョーカーは無差別殺人を繰り返していることになる。
折部はそう考え首をかしげた。
「やっぱり折部さんもジョーカーは手当たり次第に殺す殺人鬼だと思ってる?
まあイドラが何を目的にどういう基準で選んでるかわかんないもんね。
でもね、それじゃあジョーカーは『イドラ』に関与してるとは言えない。」
「もしかして、ジョーカーはイドラの標的条件を知ってるってことかな?」
「そう!どういうことは訳わからないんだけどそうらしい。」
「ジョーカーがミラーと同一人物っていう説が成り立ちそうだな。」
「あ〜、そういう考えもありかあ。
ジョーカーがイドラ関係者だとしたら納得いくもんねえ。
でもさ、その場合ってちゃんと通知くるくない?構成員だしさ。
一応ジョーカーと接触が取れたら自然とミラーの謎に近づくってこと。」
意図を汲んでいる…というよりミラーと同じ思考かそれとも…。
確かにジョーカーという存在に接触できればイドラの謎は紐解かれるかもしれない。
なによりそれだけの実力者なら力にはなるだろうな。
アッシュはもしかしたらジョーカーの存在を大きく見ているかもしれない。
さらに深く考えていると、夜々はナゲットを手に取った。
そしてナゲットに手をのばす、3つめだ。
「4つ目〜…ていうか今度は別にほんとならすげえ無駄話になっちゃうんだけど。」
「夜々のおしゃべりを聞いてたいから無駄話にはならないよ。」
「ハー、いやあんた自身の話だよ。ゴーリー。」
折部はそのことに素っ頓狂な顔でポテトを手から落とした。
「忘れてた。」
「まじか。えっもうあんた自身のことだから飛ばしていい?
ていうかもう自分のやってるじゃん?」
「いや俺どこに噂になる要素があるのかわからんよ。」
夜々はあきれたように息をもらす。
「僕の知ってるゴーリーは噂にして十二分なほど猟奇的で不気味すぎるっすよ。
うさぎを被るどころじゃなくて、殺す相手にもマスクかぶせるって聞くじゃん?
マスクの部分を綺麗に切り落とすって…。
ねえ、折部さん。それ本当にあんたなんです?
なんかあまりにもイメージ違いすぎてて本当は少し納得してない所がね…」
「これなかなか美味しいね。ソースはこっちのが好きかな。」
マスタードをごってりとつけながら口に放り込む。
夜々はそれをみながらまたため息をついて、次にうつろうとしたその時。
車の衝突音と、喧騒がひびいた。
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