序
序
18年間、まるでモテなかった。いや、初恋は10歳だから8年間か。
ありったけの勇気を出して、好きな女の子に告白しては振られ続けた。たまに噂を立てられると「そんなことないよ」とクールな顔をしつつ、内心は嬉しかった。
でも、結局、なにもなかった。
女の子にはモテなかったが、勉強はまずまず出来たので、推薦入試で大学に潜り込めた。面接だけで済んだので、入試勉強はまったくしなかった。3年間クラス替えのない高校になじめず、別の世界を求めた僕が高校2年からバイトを始めようとしたとき、親から出された条件は「成績が下がらないこと」だった。だから、勉強はかなりがんばった。その蓄積で大学の推薦入試枠に入れたけれど、それまでの勉強に疲れ果ててしまった。それまでの自分の境遇に疲れていた。
だから、大学生になって、一人暮らしになって、新しい自分になろうと思った。
誰も過去の自分を知らない、真っ白なこの京都の街の中で、新しい人生を始めていくんだ、と。
大学の近くに住むとたまり場になると聞いて、かなり離れた堀川三条のワンルームマンションを借りた。商店街の中にあり、アーケードがあるので雨でも買い物ができる。新築だったので実に快適で、ベランダからは二条城や大文字山をはじめとする送り火の山々が見えた。新しい生活を始めるにはこれ以上にない環境だ。
こじんまりとした京都の街は学生の街だ。
きっと、この街の中に運命の相手が今を生きているはず。
そう思いながら桜舞い散る春の陽射しの中を大学へ通い始めた。
自由な時間は圧倒的に増えた。
本もこれまでになく、たくさん読み始めた。
僕の前には希望しかなかった。
明るい陽射しの中で、すべては祝福され、何事もうまくいくように出来ている。
根拠もなくそう思い込んでいた。
1985年。
すべてが新しく始まったと思っていたところに現れたのが、彼女だった。
そして、僕の、なにもかもを変えてしまった。
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この小説の初校は1985年11月から書き始められ、1988年10月に書きあげられた。そのため、街の描写や登場するミュージシャンにおいて、解説が必要なものがある。今後、各章末では、1985年と2017年で違う部分や、現在ではわかりずらくなった部分を解説する。
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