執筆に欠かせないもの。

hiyu

執筆に欠かせないもの


 煮る。

 鍋を火にかけて、黙々と。

 前の晩から水に浸しておいた豆とか。

 ゆっくりこっくりと味をなじませていく煮物とか。

 ことことと揺れる鍋を見つめて、1時間でも2時間でもその前に佇んで、物事を考える。

 時々かき混ぜて、柔らかくなったかな、とか、味が染みたかな、と確認する。

 豆。

 今日は、豆、で、何か書いてみよう。

 そんな風に考えながら、じっと鍋を見つめ続ける。

 火を止めて、その数時間の間に思い描いたことを、机に向かってまとめあげる。


 頭の中では、ニコ動のコメントよろしくストーリーやイメージ、物語の断片がわわわっと流れ続けている。

 それを取りこぼさないように必死で、キーを叩く。

 本当は、ペンを握って、がりがりと紙に文字を刻み込んでいきたいのだけれど、ものすごいスピードで流れるその単語や文を、必死で拾うために。

 だから、PCは必須。

 時々取りこぼして、もう二度と戻ってこないその文字の羅列を悔やむこともあるけれど。

 頭を抱え込んで後悔している暇もないくらい、ノンストップで流れ続けるそれを、ひたすらに追う。


 右から左へと流れていく文字。

 たったひとつの単語から膨大に膨れ上がっていくイメージ。

 そのどちらも、逃さないように頑張ってみる。

 インスタントコーヒーと、チョコレートと。

 PCのディスプレイを見つめる。

 流れていく文字列。

 拾い上げた言葉が、まるでパズルみたいにうまく組み合わせられるように。

 苦いコーヒー。

 甘いチョコーレート。

 まるで飴と鞭。

 キーを叩く音が聞こえなくなるくらい集中したら、成功。


 私の机の上には、いつも、冷めきったコーヒーと、食べかけのチョコレート。

 最後の文字を打ち終えてから、きちんと胃の中。

 ごちそうさま。



 了

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