第3話 不運

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 ―あっちゃっタ、あっちゃチャ、あの子としープ?

 あはははハ?あのコ、どーするコ?―

 ……………………………………………………

 俺は、榊原さかきばらに、教科書類を見せてやった。

 …見せるのはいいんだが、やけに…

 やけに、近づいてくるんだよな…。

有由斗あゆとくん、ここ、教えて?」

 …やけに、甘えるの上手いし。もう、名前で呼んじゃってるし。


「これはだな…」


 …と、色々あるうちに、放課後になった。

 やはり、榊原は、人気があった。すれ違う人が、振り返るのは、確実だった。見とれる生徒もいた。いや、ほとんど見蕩みとれてたな。


 でも、何故か、俺は、あいつを好きになる事はできない。

 見蕩れることが出来ない。


 あいつの美しい皮の裏に、どす黒く、うごめく、化物がいる気がしてならないんだ。

 ただの、疑心暗鬼であってほしいと願うばかりだ。


 とにかく、俺は、なるべく、関わらないようにしようと、決意した。


「ねぇ、有由斗くん。放課後、どうしても話したいことがあるんだ。」


 これは、絶対に、危ない誘いだとすぐに分かった。

 …おい、それにしても、なんか、女子の目線が気になるな。どんだけ、人気なんだよ…


「ごめんね、榊原くん。俺、古田こだと駅にあるメロンパン食べに行く約束してるんだ。ちょっと、今日は…」

「ほぇ?そんな約束したっk…」


 古田が変なことを言い出す前に、絞めた。


「んじゃ、そーゆーことで。」


 何か言いたそうな顔をしていたが、無視した。


「いいのかよ?あんな美人さんと放課後イチャイチャできるかもしんねーんだz…」

 言い終わる前に、絞めた。

「あれは美人じゃねぇよ。分かってねぇな。」

「あ、もしかして、俺の方が…」

「…それ以上言ったら、分かってんだろうな?」

「…ふぁい…。」

「まぁ、いいや。今日の放課後、メロンパン行ってみよーぜ?」

「有由ちゃん!いいね!」

「…おい。そのあだ名で呼ぶんじゃねぇよ。

 てか、雪吉くんとは最近帰ってねえの?」

「へ?ゆっきー?ああ、最近、別の子と帰ってるよ?」

「彼女?」

 と言うと、古田は微妙な顔をした。

「…どちらかといえば…彼氏…?」

 と、他愛もない話をして駅まで自転車で向かう。


 平和な…日常。


 それが、今日、くつがえされる。


 運命は、残酷だ。


 だって、どうしようもないんだから。


 関わりたく、なかったんだ。



「有由ちゃん~メロンパンにメロメロになっちったよ~!」

「あっそ。そのギャグ、あんま面白くねーから。駅のホームで言うことじゃねえから。」

「冷たっ!寒いようっ!」

「それは、お前の方だよ。」


 …ふと気がつくと、様子がおかしい女子高生がいた。すぐ、近くに。ちょうど、古田の隣に立っていた。

 俺は、普段キョロキョロするようなことはしない。

 ただ、今日はたまたま目に入ってしまった。

 …あれは…同じ高校の制服?

 うつむいているが、今にも泣き出しそうな顔をしていたのが分かった。それに、少し、震えていた。


 ホームは、ギュウギュウ詰めで、顔が古田に隠れて分からなくなってしまった。


 ジャラジャラと付けている彼女のキーホルダーだけは見えた。


 電車が、来る。


「やっと…楽に…なれるっ…!」

 古田の隣から掠れた僅かな囁き声が聞こえる。


 古田は、こちらを向いていて、その女の子には気が付かない。


 突然、女の子が、軽やかに飛び上がる。


 いや、上がろうと、した。


 だが、それは、叶わず、何かに、クンっと引っ張られる。

 いや、それも、女の子に巻き添えになる。


 それとは、古田だった。


 女の子のキーホルダーが、古田のそでのボタンにギシッと絡まっていた。


 やけに、動きがゆっくりだった。


 不意をつかれた古田は、女の子と共に線路へ吸い込まれていく。

 間もなく電車が通る、線路に。


 ハッとなる女の子。


 何が起こってるのか理解できず、俺に手を伸ばす古田。


「こッ」


 俺の手が、空を切った、

違う、

瞬間。


 電車が走り去って、二人の体は、舞った。



 …クスッ。

 その瞬間。その場に居ないはずの榊原が俺の耳元で笑った気がした。

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