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 ナイトは優香のリングに視線を落とす。


『優香にプロポーズしたのか』


「プロポーズはまだしてないよ。けど、サファイヤのリングをつけ、優香はエジソン大元帥に拉致されたことは思い出した」


『……そっか』


「優香を連れてホワイトメイディ王国に帰還するつもりだ。お前も一緒に帰還するだろう。国王に謁見し、魔術を解いてもらうんだ」


『……俺は一生このままでも構わない』


「そのままではステージには立てないよ」


『……ステージ?』


「俳優矢吹貴が伝説のバンド異世界ファンタジーのTAKAだと世間に公表され、事務所にファンからの投書が殺到している」


『……ファンからの投書?』


「異世界ファンタジーの再結成だよ。事務所の社長は乗り気でね。もう一度歌わないかって」


『……再結成』


「ナイトの気持ち次第だよ。帰還してセガやナギの意思も確認したい。どうする?ナイト。もう一度ステージで歌わないか」


 ナイトが窓際に立ち、夜景を見つめ頷いた。


『しょうがねぇな。タカがどうしても歌いたいなら、再結成してやるよ。ギタリストがいねぇと、異世界ファンタジーはバンドとして成り立たねぇからな。それに……』


「それに?」


『ちゃんと優香に気持ちを伝えたいから。仮の姿はもう卒業だ』


「……ナイト」


『優香はナイトの大ファンだった。即ち、俺のことが好きなんだ。優香が俺を選んでも、文句言うなよ』


 俺達は拳を合わせ、口角を引き上げる。


「正々堂々と受けて立つ」


 ずっと優香の傍にいて、優香を見守り続けたナイト。優香がナイトを猫ではなく異性として認めたとしても、優香はナイトには渡さないよ。



 俺達はペガサスに乗り羽田空港に向かった。優香はあの時のように、気を失ったまま連れて行くことにした。


 ―羽田空港ロビー―


 俺は優香をペガサスの背に乗せたまま、羽田空港の搭乗口に近付き、右手を真っ直ぐ上に伸ばし人差し指を天に向ける。指先が赤く光り、光線が円を描く。


 異次元ポータルが開き、俺達の体は瞬時にその穴に吸い込まれた。



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