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「俺、マスコミに公表したっていいんだ。世間にバレたって、事務所の社長に怒鳴られたって関係ない。優香……俺とちゃんと付き合って欲しい。先生と別れてくれないか?」
「……ぅっ」
私はもうしゃくりあげて泣いてた。
「返事は?」
矢吹君は握っていた手を離し、私の頭をクシャって撫でた。
私は矢吹君に頭をクシャって撫でられると弱い。
矢吹君も、そんなことわかってるくせに……。
矢吹君は途中で寄り道し、公園のパーキングに車を停めた。スーツのポケットから、サファイアのリングを取り出した。
「……どうしてそれを矢吹君が?」
「ずっと話さなければいけないと思っていたんだ。これはある人物が優香のバッグから盗み、俺に渡したものだ」
「……ある人物?」
矢吹君は私の右手の薬指にリングをはめた。矢吹君のリングとサファイアのリングが重なり、サファイアはエメラルドグリーンの光を放つ。車の中は眩い光に包まれ、ある光景がフラッシュバックのように目に浮かんだ。
――そうだ……。
あの日、私は北川動物病院で……。
◇◇◇
ヨークシャーテリアのケージの中で、テリーが倒れていた。
『……テリー?テリー?』
首に指をあて脈を確かめる。
テリーは呼吸をしていた。
一体……何があったの……!?
背後で殺気を感じた。
鋭い視線がこちらに向けられている。
恐怖から、後退りした。
ナースサンダルにコツンと何かがあたる。足元に視線を落とす。
そこには……
藤崎先輩が倒れていた。
『藤崎先輩!藤崎先輩!』
しゃがみ込み、藤崎先輩の体を揺する。
『静かにしろ!』
後頭部にヒンヤリとしたものがあたる。
それが銃口だと気付くのに、数秒間を要した。
――強盗!?
『俺が恐くないのか。俺は大阪で人間をナイフで刺した指名手配犯だ』
人間をナイフで刺した……!?
獣のマスク……
迷彩服……
よく見ると、シャムもアメリカンショートヘアも黒い軍服を着ている。
『あなたが……大阪で警察官をサバイバルナイフで刺した……』
『そうだ。よく知っているな』
あれは……
白昼夢なんかじゃなかった。
彼らは人間ではなかった。
私は彼らに浚われ、意識を失い……。
その時の記憶を全て失った……。
◇◇◇
「……矢吹君。私……」
サファイアの光がスーッと消える。
「優香、思い出したんだね」
「……あれは一体何だったの?矢吹君はあの日のことを全部知ってるの?」
私は混乱している。
獣のマスクではなく、あれは獣人だった。
非現実的な出来事……。
私は頭がおかしくなってしまったのかな。
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