【15】涙のプロポーズとまさかの真実? 摩訶不思議。

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 タクシーがなかなかつかまらなくて、私は歩道でかなりの時間タクシーを待った。


 仕方ないな。フォーマルドレスだけど電車にしようかな。


 駅に向けて歩き始めた時……

 一台の車が、路側帯に止まった。


 それは、矢吹君のフェラーリだった。


 窓がスーッと開き、そこにはちょっと怒った矢吹君の顔があった。


「ふつう黙って、帰るかな」


「……っ」


「乗れよ。ここにあまり長く車停まっていられないから」


「……あっ、うん」


 矢吹君に急かされ、助手席に乗り込む。

 勢いで乗ったものの、緊張し過ぎて何も喋れない。


「優香。動物病院の先生とまだ付き合ってるのか?」


「……うん」


「結婚するのか?」


「……たぶん」


「先生のこと……好きなのか?」


 どうして……


 そんな意地悪なこと聞くのよ。


 わかってるくせに……。


 好きな人は……一人しかいないよ。


 矢吹君こそ、他の人と付き合ってるくせに……。


 ずるいよ……。


「俺、優香と大切な話がしたかったけど、あの後仕事で渡米し、なかなかオフが取れなくて、ごめん」


 矢吹君は私の右手に視線を落とす。

 矢吹君から貰ったサファイアの指輪は紛失したままだ。


 去年の誕生日に貰った指輪。

 大切な指輪を……無くすなんてサイテーだよね。


「俺はまだ付けてるんだ」


 矢吹君の右手には、あの時のペアリング。

 リングにデザインされた星が、サファイアと同じ光を放つ。


 矢吹君が右手で私の手を握った。


「俺は優香が好きだよ。ずっと……ずっと……優香のことばかり考えていた。違う世界にいても俺は俺だよ。それじゃあダメかな?」


 ……ダメなわけ……ないんだ。


「桜さんと付き合ってるんでしょう?」


「えっ?誰が?もしかしてワイドショーのネタを信じてるのか?俺が優香以外の女性と付き合うわけないだろう」


 我慢できなくて、涙が……ぽろぽろ溢れた。


 一度溢れ出したら……もう止まらない。


 矢吹君の手に力が入る。

 泣きながら……その手を握り締めた。





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