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「矢吹君、久しぶり〜」
「すごいな。俳優になったんだ。ていうか、異世ファンのタカだったなんて、早く教えてくれよ」
一緒にキャンプに行ったことがある琴美や真砂美。カンジや宏一に囲まれ、矢吹君は照れ臭そうに笑った。
矢吹君の周りに、どんどん人が集まってくる。有名人が一般人の披露宴に突如現れたのだから無理はない。
矢吹君の笑顔、眩しいよ。
眩し過ぎて……
ますます、別の世界の人に思えて……。
こんなに傍にいるのに……
すごく……遠くに感じて。
私は……凄く寂しかった。
二次会も終宴になり、私は美子に近付く。
「美子、矢吹君を招待したことを一言も言わないなんて……酷いよ」
「うふふ、ごめんね。だって、優香じれったいんだもん。矢吹君とちゃんと話しなよ。優香、結婚はね、一生の問題なの。北川先生はきっと素敵な人なんだろうけど、やっぱり本当に好きな人と結婚するべきだよ。これから先の人生の方が、長いんだから……」
美子の言うことは正論だ。
私の気持ちをちゃんと見抜いてる。
美子は大人だね。
私はまだまだ恋の初心者だ。
矢吹君と今さら何を話せばいいのか、私にはわかんないよ。
矢吹君には風月桜がいる。
私も北川先生がいる。
私達はもう終わったんだ。
美子は同じ銀行の同僚に囲まれ写真撮影に応じる。私は二人で仲良くお酒を飲んでいる恵太と美咲さんに声を掛けた。
「次は恵太だね、楽しみにしてるよ」
「また、優香はそんな事言って俺を困らせる」
恵太が顔をしかめた。
「なんやねん恵太、不満そうやな?どーゆうこと?うちとの結婚がそんなに嫌やゆうんか?」
「……な、なに言うとんねん?嫌やないって。俺は美咲だけやって」
恵太は美咲さんにタジタジだ。
……まじで、ウケる。
「うちらの結婚式にも、優香ちゃん彼と来てな」
美咲さんが明るく笑った。
「おい!俺はまだプロポーズもしてへんのに、わけわからんこというな」
「うふふ、もちろん参列させていただきます。恵太のこと宜しくね。じゃあ、私帰るから」
「帰るって、お前、矢吹はまだあそこで、みんなと話してるぞ?」
「いいの。私は……もう話す事ないから」
「優香、痩せ我慢するなよ。これがあいつと話す最後のチャンスになるかもしれないんだぞ?」
「いいの。じゃあ、美咲さんまたね」
心配そうに私を見つめる恵太。私は二人に手を振って別れた。
二次会会場の外へ出る。日も落ち周りの風景が、私の心みたいに寂しく見えた。
矢吹君にさよならも言わなかった。
ううん……。言えなかった。
でも…これでいいんだ。
これで……。
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