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恵太が矢吹君に掴み掛かった。
「やめてよ、恵太!大人なんだから、場所をわきまえて」
私は思わず怒鳴る。
「……そうだな、今日は美子の結婚式だもんな。勘弁してやるよ」
美咲さんが矢吹君を見つけ、恵太を押し退ける。
「わぁ〜!矢吹君やんか。久しぶりやなぁ。ドラマ、うち観てるよ。あれ、おもろいなぁ。映画ももーすぐ公開やろ?なぁ、後でサインくれへん?」
美咲さんが矢吹君に握手を求める。矢吹君はこんな場所で握手を求められ苦笑い。
「よ……よせよ、美咲……。みんなに矢吹貴だとバレたら、大騒ぎだよ」
恵太が慌てて止めに入る。
「もうバレてるやん。一般人とはオーラが違うんやで。こんなイケメンおらへんわ。なぁ、矢吹君一緒に写真撮ろう」
「いいよ。俺なんかでいいなら」
「ほんま?めっちゃ嬉しいわぁ!額に入れて警察署のロビーに飾るわ」
「あほか!警察署のロビーに俳優の写真飾るアホがおるか」
「ここにおるわ。警察署のロビーがダメなら、女子更衣室に飾るわ。恵太、シャッター押してんか」
「……ちぇっ、俺が写らへんやろ」
恵太は渋々カメラを取り出し、美咲さんと矢吹君に向ける。
恵太と美咲さん、ホントにいいコンビだ。
矢吹君はそのあと披露宴にも二次会にも出席した。
私と矢吹君はずっと隣の席だった。
美子が計画的に私達が並んで座るように、席順を決めたんだ。
ホント……ありえないから。
私は久しぶりに逢った矢吹君に、緊張しすぎて話が出来ない。
顔だって、まともに見れない。
だって、矢吹君に見つめられたら、きっと泣いてしまうから……。
ずっと……
ずっと……
泣きたいのを我慢して、矢吹君の隣に座っていた。
矢吹君の視線を感じながら、私は気付かない振りをして、新郎新婦を見つめながらニコニコ笑っていたんだ。
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