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 カサッと音がし、思わず俯く。


 矢吹君だったらどうしようって、本気で思った。そう思ったら、怖くて振り向けなかった。


『優香、気持ちがないくせに、どうしてハイなんて言うんだよ』


「……か、かめなしさん!?だって……」


『寒いから、早く家に入れ。遅いから心配したんだよ』


「……うん」


 家の中に入ると、急に体の力が抜けヘナヘナと土間に座り込んだ。


 かめなしさんが私に近付き、ポンポンと頭を叩いた。


『矢吹のやつ、優香に振られて暫く突っ立ってたぞ。有名人の自覚ゼロだよな。またスクープされたらどーすんだよ』


「……うそ」


『俺、矢吹と優香が喧嘩してるの見たんだ。まあ俺は、別れて正解だと思ってるけど。本当にこれでいいのか?矢吹のこと、めっちゃ好きなんじゃねぇの?』


 かめなしさんの一言で、張り詰めていた心の糸が切れた。


 ダムが決壊したみたいに、涙がどんどん溢れてくる。


 めっちゃ……好きだよ。


 矢吹君以外……好きになれないよ……。


 矢吹君の傍にずっといたいよ……


 本当は別れたくないよ……。


 膝を抱えて、私はわんわん泣いた。


『優香、ママとパパに聞こえるよ。二階の部屋に行こう。今夜は俺がずっと傍にいてやるから。優香は矢吹のために、わざと嫌われるような態度をして、別れたんだよな?』


「……うっうっ」


 かめなしさん……

 私の気持ち、全部見抜いているんだね。


 私の心の中を……全部……。


 かめなしさんが私を両手で抱き締めた。

 ギュッと抱き締められ、不思議な感覚に支配される。


 『優香……、俺もお前のことめっちゃ好きだよ』


 いつもなら、「バカだね」って、笑って誤魔化すのに、今日は涙が溢れた。


 かめなしさんの言葉が心に沁みる。


『俺がじゃなかったら、男として見てくれるのか?』


 かめなしさんが一人の男性なら……。

 私は北川先生ではなく、かめなしさんの優しさに縋っていたかもしれない。


『めっちゃ好きだから』


「……バカだね。かめなしさんは猫なんだから」


 かめなしさんの腕の中は、綿菓子に包まれてるみたいに、ふわふわしてあったかいね……。

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