【13】偽恋、嘘恋? 摩訶不思議。
優香side
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私はバスで最寄り駅に行き、電車に乗り換えライブ会場に向かった。
本当はもうライブなんてどうでもよかった。
矢吹君の顔が……
矢吹君の手の温もりが……
矢吹君に掴まれた腕の痛みが……
私の心を占める。
会場の周りは、すでに大勢の人で溢れていた。北川先生からのメールを頼りに、キョロキョロと周辺を捜す。
携帯電話が鳴り電話に出ると、『外階段の横にいるよ』と、明るい声。
会場の外階段の横に、私服の北川先生が立っていた。
いつもの白衣とは異なり、白いTシャツに黒いジャケット、ジーパンはブーツインしている。これでギターでも持っていたら、ミュージシャンに見えなくもない。
私が知っている北川先生とは、全くの別人だ。
北川先生、若いな。
普段のイメージより、ちょっとカッコイイかも。
「よかった。来てくれるとは思わなかったよ。体調はもう大丈夫?藤崎さんが倒れ、上原さんまで早退したから、何かあったのかと心配したよ」
「先日は、すみませんでした。実はあの日のことはあまり覚えてなくて……」
「突然帰るから、ライブチケットを渡したことが原因だったらどうしようって、ちょっと心配だったんだ」
「……北川先生、ごめんなさい」
本当は断るつもりだった。
矢吹君とのことがなければ、ここに来てはいない。
「もう入場始まってるから、入ろうか」
「……はい」
私は北川先生と会場に入る。
席はアリーナ席。あの、大人しい先生がライブ開演と同時に、人が変わったみたいにノリノリで、想像を超えるくらい弾けてる。
Mysteriousはメチャメチャカッコよかったけれど、北川先生のリアクションの方が、私には新鮮で面白かった。
人って、わからないもんだね。
診察室で白衣着て、どっかり椅子に座ってるイメージしかなかったから、北川先生に親近感を抱いた。
ライブが終わる頃には、私の涙は乾いていた。矢吹君はMysteriousと同じ、光の世界に住んでいる。私は暗い客席。私達の住む世界は違うんだって、つくづく思い知らされた。
「あー楽しかった!上原さん、ライブどーだった?」
子供みたいにハシャイでいる北川先生。
北川先生と私は同じ世界の人間。
「はい、すっごく楽しかったです」
「そう?よかった。お腹減ったね?何か食べに行こうか?」
「はい」
「何が好き?寒いから、俺の行きつけのおでん屋さんでいい?」
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