貴side
116
優香に突然別れを告げられ、俺は呆然と立ち尽くす。
ホワイトメイディ王国でのことは、優香は覚えてはいないと思っていた。イギ王女と優香が入れ替わった時に、優香の記憶はナギの魔術によって消されたと思っていたからだ。
だが、これは大切なことだ。
うやむやには出来ない。
だから、ちゃんと真実を話すつもりだった。
『優香にはもう近付くなと忠告したはずだ。お前、日本語わかんねーの?あっ、今は猫語かな?猫語わっかんねーの?』
「……ナイト、ふざけるな。優香は昨日のことを覚えているのか?」
『覚えてはいないが、優香には不思議な能力がある。いつ王国のことを思い出すかわからない。お前がチャラチャラ女遊びをするから、優香は愛想を尽かしたんだよ。ていうか、次は動物病院の先生って、俺という恋人がいながら、どーなってんだよ』
ナイトの言葉に、俺は平常心を保てない。
「風月桜は仕事のことでマンションを訪ねて来たんだ」
『二人きりでか?一線は越えてないとか、白々しいセリフをいう気なんだろ。そんな見えすいた嘘はもう流行らねぇよ』
「彼女と一線は越えてない。個人的な交際はしていない」
『どうなんだか』
「ナイト、お前、もう一度歌いたいって言ってたよな。俺も同じ気持ちだよ」
『話をはぐらかすな。お前は王位継承者だ。地球で俳優やミュージシャンになったとしても、ここはお前の居場所じゃないんだよ』
「……ナイト」
『優香は俺が奪い返す。せいぜい風月桜とイチャついてろ』
ナイトは俺に背を向け、優香の家に向かって歩いている。
地球で猫は仮の姿だ。
けれど、優香にはナイトの本来の姿が見えているらしい。
ナイトは優香と同居し、優香と同じベッドで眠り、毎日優香の傍にいられる。
「俺が猫になりたかったよ」
ポケットからサファイアのリングを取り出す。俺の薬指にはプラチナのリングが光る。
アギ王女から賜りし魔力を持つ不思議なサファイア。
優香と愛を誓ったサファイアのリング。
だがもうこれも……必要ないのかな。
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