113
―北川動物病院―
動物病院に到着し、真っ先にロッカールームに飛び込む。
ロッカーの中には、私のバッグが残されていた。
携帯電話には、昨夜矢吹君から着信が入っている。
ずっと……待っていた矢吹君からの電話。
それなのに……
私が携帯電話を病院に忘れるなんて……。
バッグもなく、私はどうやって家に帰ったのかな。
やっぱり……変だよね。
「優香ちゃん、おはよう」
「藤崎先輩、おはようございます。あの……私……昨日どうかしましたか?」
「昨日?私、貧血で倒れちゃって。全然覚えてないんだけど、優香ちゃんも体調不良で早退したみたいよ」
藤崎先輩は貧血で倒れたんだ。
私も体調不良で早退?
それでバッグを忘れたのかな?
「昨日、ネットニュース見たよ。本当は体調不良じゃなくて、ショックで早退したんでしょう」
「……ネットニュースですか?」
「彼が風月桜との密会写真をスクープされたみたいね。優香ちゃんの次は風月桜、有名人はモテるから心配だね」
「……嘘でしょう?」
「やだ。ニュース見てないの?朝の情報番組で騒いでたわよ」
矢吹君からの電話は……
そういうことだったんだ……。
バッグの中にはMysteriousのライブチケット。
「……あれ?ない?」
バッグの中に入れたはずのサファイアのリングがなくなっている。
「……嘘!?」
誰かに……
盗まれた……!?
まさか……ね。
きっと家に忘れたんだ。
私の記憶違いだよね。
◇
朝のミーティングで、婦長に『体調管理は自己責任、仕事に私情を挟まないこと』と注意された。きっと遠回しに矢吹君のことを言っているんだろう。
病院で保護していたシャムとアメリカンショートヘアは、昨日病院から逃げ出したらしく、どこに行ってしまったのか行方不明らしい。
藤崎先輩の貧血と私の早退が、その件に絡んでいないのか不安は過ぎったか、それを婦長に聞く勇気もない。
一日の仕事を終え、バッグの中からチケットを取り出した。
ライブの開催は今週の日曜日だ。
北川先生のくれたチケット。
返すつもりだったけど、行くと決めた。
私よりも、風月桜と交際した方が矢吹君にとってきっとプラスになる。私が北川先生と交際すれば、矢吹君が私に罪悪感を感じなくてすむ。
そうだよね……。
矢吹君……。
携帯電話を見つめ、震える指先で矢吹君の着信履歴を消去した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます