優香side

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「……んっ……あん」


 重い瞼を開くと、目の前にかめなしさんの顔。唇が触れそうなほどの至近距離に、思わず悲鳴を上げた。


「きゃあー……!?……っ、あれ?私、どうしちゃったんだろう?ここは私の部屋だよ……ね?」


『優香、また寝ぼけてんの?優香の部屋に決まってんだろ。ていうか、王子のキスに悲鳴上げるか?』


「誰が王子よ。そういえば、私ね、犯人見たの!ゴリラのマスクを被った人間が動物病院に現れたんだよ!恵太を刺した犯人なんだよ!その犯人がね、ゴリラ人間だったんだよ」


『は?何言ってんの?』


「そのゴリラ人間は、動物病院で保護していたシャムとアメリカンショートヘアの仲間で、私、三人に誘拐されて異世界に連れて行かれて、ウェディングドレス着せられたんだよ。そのあと……気を失って……」


『はいはい、奇想天外な夢だな。異世界で結婚でもしたのか?異世界の獣と結婚するくらいなら、俺と結婚してくれよ』


「……は?あれは夢……?かめなしさんこそ寝ぼけてるの?かめなしさんは猫なんだよ。結婚出来るわけないでしょう」


『優香、もし俺が猫じゃなくて、本物の王子だったら……』


 私は目覚まし時計に視線を向ける。

 目覚まし時計は午前八時を過ぎている。

 いつもなら、母が大声で起こしてくれるはずなのに、母も寝坊したのかな?


「やだ!もうこんな時間。遅刻しちゃう!」


 ベッドから飛び降りた私はパジャマのボタンを外しながら、机の上に視線を向ける。


「……あれ?私、こんな置物持ってたっけ?」


 机の上には、ウルフのぬいぐるみと白いペガサスの置物。いまにも羽ばたきそうな美しい翼に指を伸ばす。


「優香-!いつまで寝てるの!遅刻しても知らないからね!」


 階下から母の大声がし、いつもの朝が始まった。


「かめなしさんのエッチ!着替えるから、部屋から出てって」


『はいはい』


 かめなしさんはペガサスに視線を向け、ニヤリと口角を引き上げた。


「……あれ?通勤用のバッグがない?携帯電話もない?やだ。どこにやったのかな……」


『昨日、動物病院に忘れたって言ってたよ』


 バッグや携帯電話を動物病院に忘れた?

 いくらドジだからって、そんなことあり得ないよ。


 ――やっぱり……


 今朝は何かが……変だ。









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