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 ナイトは二階の窓から飛び降り、地面にストンと着地した。フェンスを挟んで俺達は向かい合う。


「随分身軽だな」


『この世界で俺は、だからな』


 ナイトはニヤリと口角を引き上げる。


「優香から連絡があったのか?」


『母親に出張で暫く帰れないと連絡があった』


「エジソン大元帥に脅されてそう言わされたに違いない。これを見てくれ」


 俺は紙を差し出す。

 ナイトはフェンスをヒラリと乗り越え、それを奪い取る。


 ナイトの表情は一瞬にして険しくなる。


『タカ、何をしている!行くぞ!』


「……ナイト!王国に戻ってくれるのか」


『勘違いするな。お前のためじゃない。優香を救うためだ!ボヤボヤするな!早く空港に行くんだ!』


「わかった!」


 ナイトとともに車に乗り込みエンジンを掛け、俺はアクセルを一気に踏み込んだ。車のタイヤがキキーッと悲鳴を上げる。


「ナイト、中原恵太を知っているか?」


『恵太?知ってるさ。優香の幼なじみだ。俺の意に反して遠距離恋愛をしてた。お前、恵太にヤキモチ妬いてるのか?』


「バーカ、そうじゃない。中原をナイフで刺したのは獣族軍の兵士に違いない」


『……やっぱりそうか。獣族軍が地球を侵略しているのか』


「そうとは断定出来ないが、獣族軍が反乱を起こしギダ殿下とアリシアをあやめた。エルフの魔術師により、二人は転生したが、今は赤ん坊だ」


『あのギダ殿下と妹アリシアが……』


「ナイト……。俺は王位の座を獣族に返還すべきだと思っている。ホワイトメイディ王国の王はもともとカメナシ一族の先祖だった。地球から転移したヤブキが獣族から王の座を奪い、獣族の反乱軍を森に追いやった。本来ならば、ナイトの父ジャンが国王となるはずだったんだ」


『今さら何を言ってる。俺が生まれた時から、王族は人族で俺達は王族に仕える身分だった。だから俺は国王やお前に仕えてきた。だが、国王に汚名をきせられ、エルフの魔術師に猫の姿にされ、国王が信じられなくなった。俺達獣族は人族に利用されていたに過ぎないと、やっと気付いたんだ』


「……すまない。全て俺のせいだ」


『俺は獣族と人族のハーフだ。所詮獣族にも人族にもなれない中途半端な種族だ。だが、何の罪もない優香を浚った獣族軍だけは許さない。俺がエジソン大元帥と話を付ける』


「……ナイト」





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