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『おい、優香!夜の十時だぞ。こんな時間に家を抜け出す気か?』
「かめなしさん、パパとママには上手く誤魔化しといて」
『は?俺の言葉、パパやママには通じないだろ。どーやって誤魔化すんだよ!ていうか、俺という恋人がいながら、矢吹と寄りを戻すなんて、どういう神経してんだ。しかも、俺に逢瀬の偽装工作をしろと!?優香の振りして女装しろってか!?』
「……ごめん。行くね」
『ちょ、ちょ、待てよ』
かめなしさんの手を振り切り、私は急いで着替えてバッグを掴む。
かめなしさんは私のフード付きパジャマを着て、ベッドの中に潜り込む。
……マジで、女装してるし。
『俺は矢吹とのことを認めたわけじゃないからな。早く帰って来いよ』
「……うん」
部屋を出て階段を駆け下りると、リビングで両親は矢吹君が出演しているテレビを観ていた。
私は両親に気付かれないように、忍び足で家をそっと抜け出した。
――反対車線の路側帯に、矢吹君の車が停まっていた。
私、すっぴんなんだよね。
泣いたあとだし、顔もグダグダだよね。
久しぶりに逢うのに、こんな顔を見せるなんて女子として恥ずかしい。
運転席側の窓がスーッと開いた。
夜なのに矢吹君は黒いサングラスをしている。髪色も明るいブラウンになっていた。ほんの少し逢わない間に、イメージが変わった気がしたんだ。
「優香、久しぶりだね」
矢吹君は右手を伸ばし、大きな掌で私の頭をクシャクシャって撫でた。
矢吹君に頭をクシャクシャってされると、何だかホッとする。
「泣き虫だな。ウサギみたいに目が真っ赤だよ」
「……だって」
「優香、今から外出出来る?ご両親に外出許可取って来たのか?」
「……うん」
外出許可なんて、嘘だよ。
こんな時間に外出するなんて、母が許すはずはない。
でも、ここで断ったら、次はいつ逢えるかわからないから。
「ご両親に許可取ったなら、車に乗って」
「うん」
私はすぐに助手席に乗り込んだ。
車のライトに一瞬照らされた顔。
「優香、もしかしてもう寝てた?」
すっぴんだとバレたみたい。
「……やだ、見ないで。子供じゃないんだから、こんなに早く寝ないよ」
恥ずかしくて、思わず俯く。
矢吹君と風月桜のラブシンーンが気になって、寝れるわけがない。
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