82
『しょせん、無理な話だ。俺みたいに全てを捨てる覚悟がないと、優香を幸せになんて出来ない』
かめなしさんに言われなくても、ちゃんとわかってるんだ。
矢吹君は映画だけではなく、テレビのトーク番組やバラエティーの出演も日増しに増えていく。現に今だって、トーク番組で矢吹君喋ってるし。
矢吹君が、うんと遠い存在になってしまったことくらい、私が一番わかってるんだ。
寂しくて……
堪らないのに……。
かめなしさんに『無理だよ』と言われただけで、涙が溢れてきた。
『泣くなよ。泣かせるつもりはなかったんだ。優香には俺がいるだろう』
かめなしさんが、私の肩をそっと抱く。
「だっでぇー。もうずっと逢ってないんだよ。うぅぅ……わぁん」
『まったく。子供じゃないんだからさ。泣くくらいなら矢吹と拘わるなって、前から忠告してるだろう。ほら、俺の腕の中で泣きな。俺が抱いてやるから』
「か、かめなしさん!?」
かめなしさんが私を抱き締める。
体に体重を乗せられ、ズズッとベッドに体が沈む。
「うわ、わ、わん」
『お前は犬か。ワンワン騒ぐな。その可愛い唇、今すぐ塞いでやる』
「きゃ……」
――かめなしさんの唇が触れる寸前、携帯電話が音を鳴らした。
『またかよ。せっかくいい所だったのに。誰だよ、俺達の甘い夜を邪魔すんのは!』
携帯電話の画面表示には……
矢吹君の文字が躍る……。
私はかめなしさんの腕をすり抜け、ベッドの上に置いていた携帯電話を掴む。
「もしもし!矢吹君!」
『優香、今日は仕事が早く終わったんだ。今すぐ逢いたい』
矢吹君の声に……
涙が溢れる。
「……ふえっ」
『もしかして優香泣いてるのか?何で泣いてんだよ。今、優香の家の前にいるから、出てこれる?』
「……うん。すぐに行く……。待ってて、すぐに行くから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます