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 ――数日後、矢吹君の出演する映画は、雑誌に大きく掲載されていた。


 矢吹君の活躍を喜び、応援してあげないといけないのに、矢吹君が遠くに行ってしまったような気がして、私はすごく寂しかった。


 共演者である風月桜とのツーショットも、なんだか妬けた。


 だって彼女とラブシーンがあるなんて、矢吹君は言ってくれなかったし、他の人とキスするなんて、なんか……やだな。


 矢吹君のスケジュールが忙しくなり、私達は電話やメールでしか、連絡が取れなくなっていた。


 今年ももうすぐ終わるのに、矢吹君に逢っていない。


 ――夜、自分の部屋でベッドに寝転び、矢吹君が掲載されている雑誌を見ていた。


『優香、また同じ雑誌見てる。よく飽きねーな。そいつ、矢吹だよな。俳優になったんだな。裏切り者め』


 かめなしさんがベッドにピョンと飛び乗り、私の横で雑誌を覗き込む。


「裏切り者って、どういう意味?」


『一人だけ俳優に転身しやがって』


 一人だけ?

 俳優に


「転身じゃなくて、俳優デビューしたのよ。やっぱり猫だね。人間の言葉がわかってないみたいね」


『チェッ、そういうことにしてやるよ』


 かめなしさんは何か言いたげに、机の上に置いてあるウルフのぬいぐるみに視線を向けた。


『お前さ、矢吹と付き合ってんのか?ヤケボックイが火ダルマになったのか。あの野郎、許せねーな』


 ヤケボックイが火ダルマ?

 全然意味がわかんないよ。

『焼け木杭に火がついた』とでも言いたいのかな。


「付き合ってるよ」


『うわ、うわ、うわ、オケしゃあしゃあと!ダダ漏れじゃん』


 オケしゃあしゃあ?

 それ、『いけしゃあしゃあ』だよね?

 意味わかってるのかな?


 猫のくせに、無理して難しい言葉を使うからだよ。


 『俳優の矢吹と一般人の優香、もともと住む世界が違ってるんだ。矢吹は日本に永久に留まることは出来ない。だってあいつは……』


「わかってるよ」


『わかってる?まじで?全部矢吹から聞いたのか!?』


「聞いてないけど、矢吹君は日本で満足出来るような人じゃない。きっと世界を見据えてるはず。だから、日米合作映画のオーディションを受けたんだよ」


『なんだよ、そっちか……」


 そっちって、どっちよ?

 変な、かめなしさん。






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