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「緊張してるのか?」
矢吹君に心の中を見透かされてる。
恵太はきっとまだ私と付き合っていると思っているはず。私と矢吹君の関係を知れば、半狂乱に陥ってしまうかも。
「二人でお見舞いに行ったら、恵太きっと驚くよ。ショックで具合が悪くなるかも……」
「そうかもな」
「恵太、私達のこと何て言うかな……」
「俺はもう嘘はつかない。中原に殴られたとしても、優香のことははっきりさせる」
「そんなこと、私がさせない。矢吹君と付き合うって決めたのは、私なんだから。矢吹君に責任はない」
矢吹君は真剣な眼差しで私を見つめ、頭をくしゃくしゃって撫でて笑ったんだ。
「優香は、俺の隣にいてくれればいいんだよ」
矢吹君の優しい言葉が……
私の心を優しく包んでくれる。
矢吹君が私の左手を握った。
細い指と指の間に、矢吹君の太い指が絡まる。
ギュッと強く握られ、初めての夜を思い出し、鼓動がトクンと跳ねる。
不埒な私。
恵太のことが気掛かりなのに、心拍数は急上昇だ。
矢吹君が私の耳元に顔を近づけた。
周囲に聞こえないように、小声で囁く。
「キスしていい?」
「な、な、何言ってんの?新幹線の中だよ。だ、ダメに決まってる」
耳たぶまできっと真っ赤になっている。
矢吹君は私のテンパる様子を楽しむように笑みを浮かべ、頬にキスをした。
私の視線は落ち着きなく、キョロキョロと周囲を見渡す。乗客の視線はこちらに向いていないが、安心は出来ない。
矢吹君は自分が俳優だってこと、わかってるのかな。大人の自覚ゼロだよ。
でも、ちょっと嬉しい。
私も、大人の自覚ゼロだね。
矢吹君の肩に、コトンって頭を乗せた。
矢吹君の微笑みが嬉しくて。
繋いだ手のぬくもりが嬉しくて。
私の瞳の中には、矢吹君しか映っていない。
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