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 ―新大阪―


 矢吹君はサングラスを掛け、私と手を繋いで歩いている。サングラスをしていても、矢吹君のオーラは一般の人を振り返らせる。


 いつバレても不思議はない状況に、私の心臓は爆発寸前だ。


 でも、矢吹君がもっともっと有名になったら、こんな事も出来なくなるんだよね。


 二人でこうして手を繋いで歩くなんて、きっともう出来ないんだね。最初で最後かもしれない。そう考えると、寂しいな。


 新大阪駅からタクシーに乗り、恵太が入院している病院へ向かった。病院に着くと、事前に聞いていた四階の外科病棟に向かう。


 エレベーターを降りてすぐの病棟。

 ネームプレートには『中原恵太』の文字。


 ドキンと鼓動が跳ね、思わずエレベーターに戻りそうになり、矢吹君に手を掴まれた。


 矢吹君の眼差しは『逃げないで』と、そう言っているようだった。


 矢吹君の強い意思に促されるように、病室のドアをノックした。


「はーい」


 室内から可愛いらしい女性の声がした。

 恵太の母親ではない、女性の声だ。


 ドアが開いて、目の前にちょっとぽっちゃり、いや、かなりぽっちゃりした女性が現れた。


 声のイメージとは全く異なる体形。でも、つぶらな瞳はクリッとしていて、愛嬌のある笑顔で私達を迎えてくれた。


「だれ?」


 この声は……、電話の女性だ。


「あの……上原です。中原恵太さんは……」


「あー!あんたが、優香ちゃんなん?めっちゃ可愛いなぁ。こっちの彼もイケメンやなぁ。もしかして優香ちゃんの彼氏なん?」


 彼女は大きな手のひらで私の手を包むと、ぶんぶんと上下に振って握手をした。


 あまりの握力に、私の体はグラグラと揺れる。

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