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 こんなことなら、優香と初体験を済ませておくべきだった……。



 ――勤務先の交番。山田巡査と小川巡査は巡回に出掛けて、俺一人。


 デスクで雑務を済ませ、酔っ払いが置いていったスポーツ新聞を何気なく広げた。


 一面は芸能ニュースだ。

 日米合作映画か、興味ねぇな。


 大型新人俳優だってさ。

 すげぇな、二万人から選ばれたラッキーボーイだってさ。俺の方がイケメンじゃん。


 ふ〜ん、矢吹貴か、二十四歳ね。


 へぇ~、矢吹と同姓同名じゃん。

 世の中には、同じ名前をした奴がいるもんだな。


 えっ?同姓同名……?


 へっ……この顔……?


 新聞に掲載されている写真に、どこか見覚えがある。俺は新聞に額をひっつけて、マジマジと写真を見る。


 ええっ〜!?こ、この俳優……!?


 ……や……矢吹だよな!?


 あいつ、いつ日本に戻って来たんだよ?


 あいつ、俳優になったのか?


 すっげぇ!?そんな才能があったなんて。


 ……って事は、東京に住んでるのか?


 まじで?


 このこと、優香は知ってんの?


 なんで、東京に戻ってんだよ!


 ――その時、交番の前で喧嘩が勃発した。


 一人はスーツを着たサラリーマン風。一人は迷彩服で顔に獣のマスクを被っている。


 この近辺で映画かドラマの撮影でもしているのか?ハロウィンでもないのに、仮装ってことはないよな。


 どちらが不審者であるのか判別するまでもなく、それは今まで体験したこともないくらい異様な光景だった。


「てめぇ、何さらしとんねん。なんや、そのマスク?ふざけとんのか」


「何のことだ。ぶつかって来たのはお前だろ。俺は大元帥だいげんすいを捜しているだけだ」


「大根すり?はあ?大根なら、家に帰って母ちゃんの足を擦ったらええやろ」


 ロレツも回らず、足元もおぼつかないスーツ姿の男が、よたりながら迷彩服の男に殴り掛かる。


 迷彩服の男は俊敏な動きで、その拳を交わし、酔っ払いの顔面にストレートパンチを浴びせ、さらに回し蹴りをした。


 酔っ払いは口から血を吹き、歩道にドサッと倒れ込む。


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