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俺は慌てて交番から飛び出し、歩道に突っ伏しているスーツ姿の男に声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
スーツ姿の男の脈はある。唸ってはいるが、意識もあるし命に別状はない。
「傷害の現行犯で逮捕する。交番で話を聞かせてもらおうか。その前に、マスクを取れ」
迷彩服の男に声を掛ける。
「俺の邪魔をするな。警察官に用はない。殺さなかっただけいいと思え」
淡々と語る男。上着のポケットからサバイバルナイフを取り出した。
嘘……だろ?
何で、サバイバルナイフなんて出すんだよ。
「そ、そんな危険なもの早くしまうんだ」
こんな状況に遭遇したことは一度もない。酔っ払いの喧嘩で、刃物を目にしたこともない。
こいつはテロリストなのか……?
それとも精神に異常をきたしているのか……?
「は、話を聞かせてくれ。だいげんすいって、何だ?捜している人の苗字か?俺は警察官だ。失踪者なら捜査協力してやる。だから、ナイフは収めろ」
迷彩服の男がナイフを持つ手を下げた。
奇妙なことに、その手も毛むくじゃらで獣の手のようだった。まるで、SF映画の特殊メイクのようだ。
――その時、俺の背後で声がした。
「さっさと、やらんかい!」
倒れていた男が、迷彩服の男を挑発する。
迷彩服の男は、サバイバルナイフをくるくると指で回転させ、不敵な笑みを浮かべた。
男がサバイバルナイフを強く握った。その鋭い刃先はスーツ姿の男に向けられた。男の足がアスファルトを蹴り、一瞬体が宙に浮く。俺はサバイバルナイフを奪い取ろうと、迷彩服の男の前に立ちはだかる。
「やめろ――!」
――男の体と俺の体が激しくぶつかる。
ドスンと脇腹に鈍痛が走った。
「うっ……。な、なんで……」
迷彩服の男が、俺の体を突き飛ばし走り去る。まるで瞬間移動するみたいに、数メートル先、数十メートル先、その姿はあっというまに消えてしまった。
俺は男の姿を目で追いながら、ペタンと歩道に座り込む。
――ポタッ……ポタッ……
脇腹にヌルリとした感触……
何かが、ポタポタと歩道に落ちた。
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