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矢吹君は新築マンションの地下駐車場に車を停めた。
「ここは……?」
「俺のマンションだよ。家までちゃんと送るから、寄って行かない?」
「……うん。少しだけなら」
矢吹君のマンションが、この新築マンションだったなんて。『お洒落な外観で素敵なマンションだね』って、母と話していたんだ。
室内はどんな感じなのかな?
インテリアはどんな感じなのかな?
一年振りに再会し、その日のうちにマンションに行くのは図々しいかなとも思ったけど、新築マンションに興味津々だ。
矢吹君はどんなつもりで私を誘ったんだろう。きっとマンションの部屋番号を私に教えたかっただけだよね。
再会した日にいきなり……とか。
矢吹君に限って、そんなことあるはずない。
まるで小さな子供が遠足に行くみたいに、ウキウキしながら矢吹君に付いて行く。
矢吹君は海外生活したり、外車を乗り回したり、きっとセレブな家庭の子息に違いない。このマンションも新築だし、フェラーリも新車。俳優になったばかりの矢吹君にそんな資産があるとは思えないから。
私……
矢吹君の家庭のこと、よく知らないんだ。
俳優だってことですら、私と住む世界が違うのに、セレブな御曹司とかだったらどうしよう……。
矢吹君の部屋は十五階。エレベーターの中で、心臓がバクバクしてきた。
カードキーで室内に入ると、まだ新築の匂いがする。白いクロスが眩しくて、フローリングはツルツルしている。二LDKのリビングはめちゃめちゃ広い。
何畳あるのかな?
リビングだけで三十畳はあるよね?
家具はふかふかの白いソファーと大型テレビとサイドボードだけ。生活感もない。
「すっご〜い!」
リビングの広さに、思わず声が出る。
リビングの前面は掃き出し窓。その先には広いバルコニーがあり、窓から広がる風景に思わず見とれた。
「夜はもっと綺麗だよ。夜景は最高なんだ。一緒に見たいと思ってた」
「よ、夜ですか……!?」
まだ夕方だ。
思わず矢吹君の顔を見上げる。
矢吹君の大きな瞳に、スーッと吸い込まれそうな自分がいて……。
どうしよう……
良からぬ妄想が脳内をチラチラ過ぎり、呼吸が苦しくなる。
「さっきの……続きしていい?」
矢吹君は私をギュッと抱きしめた。
さ、さっきの続き!?
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