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 私達、一年ぶりに逢って……。


 さっき、『付き合って』って言われて……。


 それで……

 高価なサファイアのリングを貰って……。


 え、え、えっ――!?

 このリングは、そういうコト!?


 矢吹君のキスはとろけるほど甘くて。


 私の正常な思考回路を溶かすくらい甘くて。


 再会したばかりとか……。


 このリングの意味が、そういうコトだったとか。


 そんなことが、どうでもよくなるくらい甘くて。


 矢吹君はカラオケでしたキスよりも、情熱的なキスを繰り返す。


 私は息が上がり、呼吸困難で本当に酸欠になりそうだ。


 まさか、また金魚みたいにパクパクしてないよね。


「シャワー先に使う?」


 矢吹君が耳元で囁いた。

 少し掠れた甘い声。


 チョコレートみたいに甘くて濃厚なキスに、逆上せたようにポーッとしていた私。


 矢吹君の一言で、ハッと正気に戻る。


 シャ……シャワー……わ、わ、わ、!?


「……えっとぉ」


 こういう時は、何て返事をすればいいの?


『はい』って言うと、軽い女みたいだし。

『帰る』って言うと、矢吹君との関係が壊れてしまいそうだ。


 矢吹君との関係は……

 壊したくない。


 いつかの日か体験するのなら……

 初めては矢吹君がいい。


 困っていたら矢吹君が笑った。

 私の頬に優しくキスをして、こう聞いたんだ。


「一緒に入る?」


「うわ、わ、わ。ひ、一人で入ります」


 入るって、勢いで言っちゃった。

 シャワー使うってことは、そうするってことで。そうするってことは、私は矢吹君と……。


「バスルームはリビングを出て左側のドアだから、タオルもバスローブも棚にあるから自由に使って」


 矢吹君、そんなに慣れた話し方しないで。初めての私には、ちょっとショックだよ。


 もっと不慣れで、アタフタして欲しいのに。どうしてそんなに大人なの?

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