40

 獣族軍の兵士を蝋人形に変えられてしまったエジソン大元帥が、このまま黙って引き下がるとは思えなかった。


「ナギ!ナギ起きろ!」


「……タカ、どうしてここに?」


 ナギは直ぐさまセガに縋り付く。


「セガ……、大丈夫だよ。僕がこの傷を治してあげる」


「そんなにフラフラで、この傷が治せるわけねぇだろう。これしきの傷で、死んだりしねぇよ。それより、ナギ。こいつらを要塞の牢に閉じ込めるんだ」


「……そうだね。ずっと蝋人形のままではいられない。二十四時間経つと、この魔術は解けてしまうんだ」


 ナギは虹色のステッキを大きく回転させる。蝋人形となった兵士達が空中を飛び、次々と牢の中に収容された。


 ナギは残った力を振り絞り、セガの傷口に手を翳す。ナギの手のひらから黄金の光が放たれ、大きく裂けていた傷口は閉じ傷痕さえも消えてなくなった。


「……これで……いいよね。ふぅ……」


 ナギは再び意識を失い、その場に倒れた。


「ナギ!ナギ!だから、無理するなって言っただろう。しょうがねぇな」


 すっかり傷の治ったセガが、ナギを背負った。


「タカ、急いでホワイトメイディ城に戻ろう!」


「わかった!」


 俺達は険しい岩山を降りる。

 森に辿り着いた俺は、木に繋いでいた馬に跨がる。セガは自分達の馬を探したが、縄を切った形跡があり、馬の姿は忽然と消えていた。


「俺とナギの白馬がいねぇ。エジソン大元帥とレオン大佐に盗まれたんだ。タカ、ナギを連れて先に行け。俺は走って追いかける」


「セガ……!わかった!ナギを連れて先に城に戻る。必ず、迎えに来るからな。森で迷子になるなよ」


「バーカ、誰が迷子になるか」


 獣族軍の生き残りが潜んでいるかもしれない森にセガを残し、俺はナギを乗せ馬を走らせた。


 どうか……

 ギダ殿下とアリシアが無事でありますように。


 ◇


 ―ホワイトメイディ城―


 城に戻ると、城内からは悲痛な叫びが聞こえた。

  

 手綱を強く引き白馬の歩みを止める。胸騒ぎがし気を失っているナギを揺り起こした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る