39
俺は城を飛び出し、白馬に跨がる。
馬はヤブキと一緒にこの王国に数頭転移し、この地で繁殖させたものだ。
獣族軍の司令部が深い森のどこにあるのかわからないが、胸騒ぎがしじっとしていることは出来なかった。
セガはナギと一緒にいるはずだ。
ナギは常に冷静で、エルフは人族と獣族の中立的な立場にある。
いざとなれば、魔術でセガを救ってくれるはず。
太陽が森の中を明るく照らし、木の葉に溜まっている夜露が輝いている。
「セガー!ナギー!」
自分の声だけが、静かな森の中を駆け抜ける。
「……セガ、ナギ、どこに行ったんだよ!まさか……」
森の中を闇雲に馬を走らせると、山頂に要塞が見えた。険しい岩山は馬で上るには不可能だ。馬の手綱を木に括り付け、俺は険しい岩山を上った。
要塞に辿り着くと、数名の衛兵がいた。
刀剣を手に、奴らの動向を伺う。
奴らの顔はゴリラのように厳つく、黒い毛に覆われている。戦国時代のような鎧兜を身につけていたが、まるで蝋人形のように身動きひとつしない。
「……どうしたんだ?」
衛兵の横を通り過ぎ、要塞の中に侵入する。要塞の床には、たくさんの兵士が倒れていた。
口から血を流している者。
体を斬り裂かれている者。
要塞には血溜まりが出来ている。凄惨な現場に身も凍る思いがしたが、数十体の兵士は、みな蝋人形のように固まっていた。
「……セガ、ナギ、どこにいるんだ」
獣族軍の兵士の体がゴロンと転がり、思わず刀剣を身構える。兵士の背後から人間の指が見えた。
「……おせぇぞ、タカ」
「セガ!生きているのか!」
「……あたり前だろ」
俺はセガに駆け寄り、その手を掴んだ。ヌルリとした感触に、思わず目を見開く。
そこにいたのは……
腕や背中を負傷した、血だらけのセガ……。
セガの足元の血溜まりの中で倒れていたのは、ナギだった……。
「ナギ!ナギー!」
「心配するな……。ナギは死んじゃいねぇよ。ナギは最後まで話し合いでケリをつけるつもりだったが、獣族軍が攻撃してきたんだ。兵士に斬りつけられた俺を助けるために、魔力を使い獣族軍を蝋人形に変えた。体力を消耗し、気を失ってるだけだ」
「……そうか」
俺は上着を切り裂き、セガの体に巻き付け止血する。
「セガ、エジソン大元帥はどこだ」
「エジソン大元帥と側近のレオン大佐は逃走した……。もしかしたら……ホワイトメイディ城に向かったのかもしれない」
「……ホワイトメイディ城に」
「すまない。エジソン大元帥を説得することが出来なかった。ギダ殿下とアリシアが……危ない」
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