37
―ホワイトメイディ王国、地下牢―
「これはギダ殿下。こんな夜分にどうなさいましたか?随分大きなラフ・カラーでございますね?」
ギダ殿下は大きなハットを被り、鼻から下はラフ・カラーで隠している。
「国王陛下の命令だ。ナギ王子を釈放しろ」
「ナギ王子を釈放でございますか?タカ王子とセガ公子はどうなさいますか?タカ王子は落ち着きなく牢の中を飛び跳ね、セガ公子は具合が悪いのか、床で丸くなったまま動こうとしません」
「……ぷっ」
思わず噴き出したギダ殿下に、牢番が首を傾げる。
「タカ王子とセガ公子は投獄しておけ。ナギ王子を早く釈放しろ」
「はい、畏まりました」
牢番は地下牢の鍵を開ける。
薄暗い地下牢。湿気を含みジメジメとしている。
「ナギ王子、釈放だ。出るがよい」
「……釈放?タカ王子やセガ公子は?」
「釈放が許されたのは、ナギ王子だけだ」
「僕だけ……?」
ナギ王子はギダ殿下に視線を向け、目を見開いた。
「ナギ王子、私について来るがよい」
「……はい。ププッ……、失礼しました。ギダ殿下」
地下牢を出ると、二人は直ぐさま馬屋に向かう。
「セガ、どーしたんだよ。その恰好、ギダ殿下の軍服だよね」
「シーッ、俺はギダ殿下だ。これから森に入り、獣族軍のエジソン大元帥と会う。アリシアはエジソン大元帥と婚約していたんだ。エジソン大元帥に婚約破棄を言い渡し、アリシアとギダ殿下の結婚を認めさせる」
「獣族軍のエジソン大元帥だって!?む、無理だよ。人族を最も憎んでいる種族だ。
森は獣族のテリトリー。王族とはいえ、獣族軍の大元帥と対等に話など出来ない」
「異次元ポータルを発見されてしまったんだ。国王陛下とギダ殿下の暗殺を目論んでいる。このままにしておけば、獣族軍が地球をも侵略しかねない」
「……そんな」
「俺一人では、到底敵わないだろう。ナギの力が必要なんだ」
「エルフは……獣族との争いは望んではいない。エルフは平和な生き物だ」
「わかっているよ。俺の傍にいてくれるだけでいい。獣族軍の司令部に案内してくれ」
「……セガ。ギダ殿下に身代わりを頼まれたのか?それともタカに頼まれたのか?」
「俺の独断だ。俺だって王族の一人だからな。ギダ殿下もタカも俺の従兄だ。みすみす死なせたりはしない」
「わかったよ。獣族軍の司令部に案内する」
二人は白馬を走らせ、深い森へと消えた。
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