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「ありがとう……。でも……」


 こんな綺麗なサファイア、宝石店でも見たことがない。


「このリング、受け取ってくれるよね?」


 このリングに込められた想いは……?


 もしも深い意味のあるリングだとしたら、私は矢吹君の想いに応えられるのかな。


「もしかして、恋人がいるの?」


 キスした後に、そんなこと聞かないで。


「あれから一年経ったんだ。上原に恋人がいても不思議はない。ごめん、先走ったかな」


「……恋人なんて、いないよ」


 恵太のことが……言えなかった。


 恵太ごめんね……。


 さっきキスされて、はっきりわかったんだ。矢吹君がやっぱり好きだってこと。


「本当にいないの?」


 矢吹君の問いに、秘密を持っている自分の良心が痛む。


「矢吹君こそ、外国に素敵な女性が沢山いるんでしょう」


「いるよ」


「えっ……」


 彼女が沢山いると発言した矢吹君に、心中穏やかではない。


「素敵な友達ならたくさんいる。でも……恋人と呼べるのは上原だけ」


 矢吹君はそう囁くと、もう一度私にキスをした。


 室内に甘い空気が流れる。


 矢吹君は正直に話してくれた。


 私も恵太のことをちゃんと話さないといけないよね。


 矢吹君がいなくなったあと、私の寂しい心を埋めてくれたのは恵太だった。


 恵太が私に告白したことも、恵太が遠距離恋愛していると思い込んでいることも、何もなかったことには出来ない。


 室内の電話が鳴り、慌てて矢吹君から離れる。カラオケ店だってことを忘れるくらい甘くときめく時間だった。


 電話に出ると、いつもの店員だった。


『優香ちゃん、オーダーは決まった?』


「ごめんなさい。ちょっと待って」


 受話口を押さえて、矢吹君に聞く。


「矢吹君、アイスコーヒーでいい?」


「うん、いいよ」


「あのー……アイスコーヒー二つ」


『はい、わかりました。すぐ持って行くからね』


「はい……」


 電話を切った後、火照った頬を両手で触った。ひんやりとした掌の感触が気持ちいい。


 私の顔……きっとタコさんウィンナーみたいに赤いよね……。

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