30
「ありがとう……。でも……」
こんな綺麗なサファイア、宝石店でも見たことがない。
「このリング、受け取ってくれるよね?」
このリングに込められた想いは……?
もしも深い意味のあるリングだとしたら、私は矢吹君の想いに応えられるのかな。
「もしかして、恋人がいるの?」
キスした後に、そんなこと聞かないで。
「あれから一年経ったんだ。上原に恋人がいても不思議はない。ごめん、先走ったかな」
「……恋人なんて、いないよ」
恵太のことが……言えなかった。
恵太ごめんね……。
さっきキスされて、はっきりわかったんだ。矢吹君がやっぱり好きだってこと。
「本当にいないの?」
矢吹君の問いに、秘密を持っている自分の良心が痛む。
「矢吹君こそ、外国に素敵な女性が沢山いるんでしょう」
「いるよ」
「えっ……」
彼女が沢山いると発言した矢吹君に、心中穏やかではない。
「素敵な友達ならたくさんいる。でも……恋人と呼べるのは上原だけ」
矢吹君はそう囁くと、もう一度私にキスをした。
室内に甘い空気が流れる。
矢吹君は正直に話してくれた。
私も恵太のことをちゃんと話さないといけないよね。
矢吹君がいなくなったあと、私の寂しい心を埋めてくれたのは恵太だった。
恵太が私に告白したことも、恵太が遠距離恋愛していると思い込んでいることも、何もなかったことには出来ない。
室内の電話が鳴り、慌てて矢吹君から離れる。カラオケ店だってことを忘れるくらい甘くときめく時間だった。
電話に出ると、いつもの店員だった。
『優香ちゃん、オーダーは決まった?』
「ごめんなさい。ちょっと待って」
受話口を押さえて、矢吹君に聞く。
「矢吹君、アイスコーヒーでいい?」
「うん、いいよ」
「あのー……アイスコーヒー二つ」
『はい、わかりました。すぐ持って行くからね』
「はい……」
電話を切った後、火照った頬を両手で触った。ひんやりとした掌の感触が気持ちいい。
私の顔……きっとタコさんウィンナーみたいに赤いよね……。
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