29

 私の誕生日を……

 覚えていてくれたんだね……。


 嬉しくて……

 涙が溢れた……。


「上原?泣いてるのか?」


「……だって……だって」


 一度溢れ出した涙は、もう……止まらない。


「待たせてごめん」


「……ふぇっ……ふぇっ…」


 泣いている私を、矢吹君の逞しい腕が抱きしめた。 広い胸に抱かれて、子供みたいに泣きじゃくる。


「ずっと上原のこと、忘れたことはなかったよ」


 そんなこともう言わないでよ。

 涙が止まらなくなっちゃう。


「上原のことだけ、ずっと考えてた。俺とまた付き合ってくれないか?」


 私は小さく頷く。

 私の顔は涙でぐしゃぐしゃだ。


「キスして……いい?」


 どうして……聞くの?

 返事……できないよ……。


 恵太の顔が……

 一瞬、脳裏に浮かんだ。


「泣き虫だな」


 矢吹君は私の涙を指で拭い、頬を包み込み私にキスをした。


 もう何も考えられなかった。


 重なる唇が、あったかくて幸せで……。


 一年分の想いが、心から溢れ出す。


 ――矢吹君……


 やっぱり……大好き……。


 矢吹君は唇を離すと、私の髪を優しく撫でた。


「プレゼント開けてみてよ」


 私はポーッとして放心状態。

 震える指先でリボンを解き、ピンク色の包装紙を開け箱を開く。


 小さな箱の中には指輪のケースが入っていて、プラチナのリングが入っていた。リングには青藍色透明の光を放つサファイア。


「綺麗……」


 サファイアを見つめていると、深い湖の底に引き込まれそうな錯覚さえ起こす。


 こんな高価なものを、誕生日プレゼントに貰ってもいいのかな。

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