18

「じゃあ、かめなしさん、あとでね」


『おぅ、優香の部屋で待ってるよ』


「やだ。私の部屋に勝手に入らないでね。もうフツーの猫じゃないんだから」


『マジで?毎日一緒に寝てたのに。ダメって、そんな殺生な。せっかく会話出来るんだよ。二人でワインでも飲みながら、俺達のことを朝まで語り明かそうぜ』


「ミルクしか飲めないくせに」


『そ、それは仮の姿だから。嗜好が猫になってるだけで、ワインは飲めるんだぞ。オトナの俺を堪能してみる?』


 何言ってんだか。

 相変わらず、エロいんだから。


 床をゴロゴロ転がってるかめなしさんを無視して、私はリビングへ入る。ダイニングテーブルの上には二人分の食事が置かれていた。


 父の帰宅は遅く、最近は母と二人で夕食をすることが増えた。


「あ~お腹すいた」


「あら?おでこと鼻の頭どーしたの?赤くなってるよ?」


「ああこれね?動物病院の階段から落ちたの」


「やだ。本当そそっかしいんだから、気をつけてよ。女は顔が命だよ。どんなに性格が良くても、美人には勝てないんだから」


「ママ、面白いこと言うね」


「当たり前でしょう。第一印象はやっぱり顔なのよ。美人じゃないと、彼氏も出来ないでしょう。美子ちゃんを見てごらんなさい。ますます綺麗になって、優香と同じ歳だとは思えないよ」


 どうして美子と比べるかな。

 美子は子供の頃からずっと美少女だったんだから、大人になっても美人に決まってる。


 童顔の私が、突然美人になるには整形するしかないでしょう。


「……美人じゃなくて、悪かったね」


 私、母親似なんだけど。


「ところで、恵ちゃんと優香はどうなってるの?」


 サラッと話を変えるし。

 娘が傷付いてるんですけど。


「どーもなってないよ」


「なんだ進歩ないの?ママは恵ちゃんでもいいのよ。恵ちゃんは警察官だし、凄いよね」


『恵ちゃんでもいい』って、どういう意味よ。私にも恵太にも失礼じゃない?


「恵太が警察官になるなんて、未だに信じられないよ。あんなに臆病なのによく採用試験合格したよね」


「恵ちゃんは陰で努力していたのよ。剣道や柔道もこっそり習っていたみたいだし。そんなことを口に出さないなんて、恵ちゃんらしいわね。それより、最近恵ちゃん東京に来ないわね。電話くらいしてるの?もしかして、遠距離恋愛に疲れて、大阪に彼女が出来たんじゃない?」


 遠距離恋愛って、私と恵太が付き合ってるって、勝手に決めつけないで。


 でも……

 確かに、電話もLINEもない。


「……そうかも……ね」


 恵太、元気にしてるのかな?


 リビングのソファーで寝転んでるかめなしさんが、私に視線を向ける。


『あの恵太が浮気してんの?まっ、別にいいじゃん。ヘタレな恵太が、俺に勝てないと思ったのかも。それより、優香がモテないとママが心配しているみたいだけど、俺、そろそろ挨拶した方がいいかな?猫だから手土産はヤモリかカエルしか用意出来ないけど』


 私は思わずかめなしさんを睨む。

 かめなしさんは『カッカッカッ、照れるなぁ』と笑った。

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