二階へ駆け上がると、そこは病気や怪我のための入院室と、一時預かりのペットホテルになっている。


 入院室のドアは開いていた。

 「クーンクーン」「キャンキャン」と犬達が呼んでいる。


 開院まで、あと五分しかない。

 急がなきゃ……。


 二階の食品倉庫へ直行し、ダイエット用のキャットフードを掴む。全部で五袋。合計十キロなら楽勝だ。


 腕力には自信がある私。

 五袋全部両腕で持ち上げ、エレベーターに向かう。


 入院している動物達が、人の気配を感じて一斉に吠えた。


「待っててね。あとですぐ行くからね」


 エレベーターを待つ時間が惜しくて、階段を降りる。


 五袋抱えているため、若干前が見えづらい。


 ゆっくり……ゆっくり……階段を降りた。


 これなら、エレベーターを待っていた方が早かったかも。


「上原さん、開院するわよ。早く」


 越谷婦長の掛け声に焦った私は、階段から足を踏み外した。ニキロのキャットフードの山が左右に揺れた。


「うわ、うわぁーー!」


 ―――ドドドドドッ……


 ――ドタッ!


 体操選手のように上手く着地出来なかった私は、フローリングの床に顔面から落下し、額を強打し鼻先を擦り剥いた。


 手に持っていたキャットフードは宙を舞い床に激突し、ビニール袋は破れ周囲に散乱した。


「上原さん!やだ、鼻の頭が真っ赤になってるよ。大丈夫?」


 受付にいた野元のもと先輩が、慌てて駆け寄る。野元先輩はサラサラのストレートヘア、美人でスレンダー。動物が大好きで、私より一歳年上の優しい先輩だ。


「ごめんなさい。イテテ……大丈夫です」


 頭を擦りながら体を起こすと、不意に二階から大勢の人の声がした。


『スゲー音がしたな!誰か落ちたみたいだぜ?』


『きっと新人だよ。アイツ、一年経ってもドジばかりしてるからな』


『何をやらせても、だっせぇなぁ。給料泥棒だよ』


『ぎゃははっ!お前ら、見た?見た?イチゴのパンツ!』


『う……うひひっ……。見た、見た!ピンクの苺パンツ』


『今時、あんなパンツ、小学生でも穿かねぇぞ』


『あははっ。まじだぜ。だっせぇ!色気ねぇな』


『うっはっはっ!アレじゃ、男いねぇな』


『わっはっはっ!俺でもヤる気になんねーよ』

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