5
「優香!早くしないともう知らないよ!」
母の叫び声で、ハッと我に返る。
「ヤバい。まだ、メイクもしてないよ。大変だぁ」
慌てて部屋を飛び出し、階段を駆け降りる。洗面所でザバザバ顔を洗い、タオルでゴシゴシ顔を拭き、洗面所を飛び出した。
冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し、コップに注ぎ一気飲み。キッチンでかめなしさんを見つけ声を掛ける。
「おはよう、かめなしさん。野菜ジュース飲む?」
「ニャア〜」
「飲むわけないよね。はい、ミルク」
かめなしさんの器にミルクを注ぎ、私は二階へ駆け上がる。
「優香!朝ご飯は?」
「時間ないからいらない。メイク優先だよ」
「……まったく。女の美しさは内面から滲み出るのよ。メイクより、バランスの取れた朝食の方が大事だってことわかんないのかな」
内面から滲み出ないから、メイクで誤魔化してるんだよ。母親なのにそんなこともわかんないのかな。
ドレッサーの前で、超スピード五分間メイク。ピンクの口紅を塗って出来上がり。
「わっ!バスの時間だよ。間に合わないよ。大変だ」
慌てて一階へ駆け降りる。
「毎朝、毎朝、騒々しいわね。また階段から落ちても知らないからね」
階段から落ちるか……。
階下で寝転がっていたかめなしさんと目が合った。かめなしさんは大きなあくびをし前足を伸ばす。
「ママ、行ってきまーす。かめなしさんも行ってきまーす」
「行ってらっしゃい」
「ニャア〜」
パンプスに足を突っ込み、玄関を開け勢いよく外へ飛び出した。
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