――恵太は昨年の年末と年始に、東京に遊びに来た。宿泊場所に選んだのは、カンジのアパートでも宏一の自宅でもなく、私の家だった。


 恵太の母親に頼まれ、『いいよ、何日でも泊めてあげる。子供の頃、よくお泊まりしたわよね。懐かしいわぁ』って、簡単にOKを出す両親。


 それは、小学校低学年までの話だ。


 私も恵太ももう立派な大人。

 いくら幼なじみとはいえ、猫に例えるなら恵太は盛りのピーク。


 同じ家で若い男女が三泊四日も一緒に過ごすなんて、母は鈍感というか、恵太が男だって認識がないのかな。


 娘の貞操の危機だと思わないの?


 恵太が居すわっているせいで、連日我が家では学生時代の懐かしい男友達が終結し、どんちゃん騒ぎ。


 両親は『子供が増えたみたい。賑やかで楽しいお正月ね』って、勝手に盛り上がってるし、男友達には『お前ら、いつから深い仲になったんだよ?』って、勘違いされるし、散々なお正月だった。


 大阪に戻る日、恵太は私にキスをした。


 唇を掠めるだけの優しいキス。

 でも私は動揺を隠せない。


 恵太のことは好きだよ。

 離れ離れになって、寂しい気持ちが強くなった。


『俺達、付き合ってんだよな』


 恵太はニッコリ笑って、定期券ケースに付けた通天閣のストラップを見せた。


 マジですか……。


 私達、付き合ってないよね?

 遠距離だし、まだ幼なじみのままだし、付き合うって意味がよくわからない。


 机の上の『たかしくん』。恵太はぬいぐるみの向きを変えて、私の視界から遠ざける。


『矢吹に見られてるみたいで、なんか嫌だな。矢吹から誕生日プレゼントが届くなんて、アイツ何考えてんだよ。俺と優香は付き合ってんだぞ』


 ぬいぐるみに敵意剥き出しで、私を抱き締めた恵太。かめなしさんが恵太に飛び付き引っ掻いた。


『いてて……。かめなし!お前、俺に喧嘩売ってんのか!傷害事件で逮捕するぞ』


 何言ってんだか。

 私が恵太を『キス泥棒』で訴えるんだからね。


 私と恵太はずっと平行線。


 私の気持ちが定まらない限り、唇を奪われてもその先には進めない。

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