年月は私だけではなく、恵太や美子も成長させた。


 一番驚いたのは、私や美子に決して夢を語らなかった恵太が、な、なんと、昨年大阪府警察官採用試験に合格し、今年の四月から半年警察学校に通い無事卒業した。


 あのヘタレで臆病な恵太が警察官になるなんて、思ってもみなかったよ。


 青天の霹靂へきれき、天と地が引っ繰り返るとは、このことだ。


 恵太から今年送られてきたプレゼントは、ストラップ。


毎年、誕生日プレゼントがストラップである意味がわからないが、お揃いらしい。


 昨年はタコヤキで、今年は通天閣だ。

センスのなさは、天下一だね。美子は恵太に失恋して正解だったかも。


 美子は今年の春、交際していた草野君との恋にピリオドを打った。今は五歳年上の銀行員と社内恋愛中。


 社会人になり大人の恋をし、ますます綺麗になった美子は、宝石みたいにキラキラと輝いている。


 矢吹君に失恋した私は、宝石どころかまた河原の石ころに逆戻りだ。


 そして我が家の猫、かめなしさんは三歳になった。人間でいえば、たぶん二十八歳くらいなんだよね。


 盛りのついた猫に、始終纏わり付かれうんざりしているといいたいところだが、彼氏いない歴を再更新している私には、かめなしさんは特別な存在だ。


 飼い主の責任として、ちゃんと去勢手術をするべきだが、家族でその話になると、いじけてプチ家出をしてしまう。


 まるで、人間の言葉を理解しているようで、あの摩訶不思議な出来事を思い出す。


 かめなしさんが……

 人間に見えた、あの数ヶ月……。


 私は矢吹君に恋をした。





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