僕が好きな委員長は僕にフラれたクラスメイトの子が好きなわけで。
青見銀縁
第1話 喫茶店で告白されるシチュエーションなんて、想像もしなかった。
「ごめんなさい」
高校一年の僕、片垣俊は頭を下げた。
放課後の、駅前にある喫茶店。
僕は顔を上げられずにいた。
手をついてるテーブルには頼んだアイスコーヒーがある。まだ、飲んではいないけど。
耳からはクラシック音楽が流れ、時折、食器の当たる音がする。多分、客の誰かがコーヒーを啜っているのだろう。
僕が謝っている相手はすぐに言葉が返ってこなかった。
といっても、時間にしては、数秒くらいだったのかもしれない。
「顔、上げて」
優しげな声に、僕は恐る恐る視線を前へ移す。
僕が座るテーブル席の向かい側には、ひとりの女子が座っていた。
背丈は僕と同じくらいで、髪は肩にかかるぐらいの長さ。目鼻立ちはクラスでも平均で、どちらかというと、清楚な印象だ。着ている制服の袖から伸びる腕や手はか細く、運動は苦手そうに思えた。教室では他の女子らと過ごしており、僕から見れば、クラスメイトのひとりという位置づけだった。
彼女、今野宮美優里は、僕に対して、笑みをこぼしていた。
「片垣くんにそんな謝り方をさせられると、わたしがまるで、ひどいことをされたみたいに見えるよ?」
「で、でも……」
「でも、じゃないよ。それに、さっきわたしが言ったことは、単なる我がままみたいなものだから」
今野宮は続けて、「だから、あんまり気にしないで」と口にした。
だが、僕にとっては、どうでもいいこととして、片づけられるものではなかった。
「僕は、その、気持ちは嬉しい。というより、今まで、女子に告白されたことなんて、なかったから」
「それは、わたしも同じだよ。男子に告白したことなんて、これまで、一度もなかったもの」
今野宮は陽気そうに言葉を漏らす。
僕には、彼女が無理してるようにしか見えなかった。
そう、僕は、今野宮に、「付き合ってください」と言われ、断ったのだった。
下駄箱内の手紙に、今いる喫茶店で待ってる云々の内容で呼び出された後に。
「本当にごめんなさい」
「もう、いいよ。その、わたしもフラれることは、何となくわかっていたから」
「えっ?」
僕は意表を突かれ、間の抜けた声をこぼしてしまった。
「あれ? 片垣くん、もしかして、誰にも気づかれてないと思ってた?」
今野宮が首を傾げつつ、楽しげな表情をする。どうも、僕が何も知らないことに対して、からかいたくなったようだった。
「片垣くんって、好きな人いるでしょ?」
「好きな、人?」
「そう、好きな人」
今野宮の言葉に、僕は内心でどきりとした。
彼女は僕の反応を確かめるかのように、視線をやりつつ、自分のホットコーヒーを飲んだ。砂糖やミルクなしで。
今野宮の指摘は正しい。
僕には好きな人がいる。
「それ、誰か、わたしが当ててみようかな」
「えっ、いや、その、当ててみようだなんて……」
「神前さんでしょ?」
今野宮の指摘に、僕はびくりと肩を震わせた。
「やっぱり」
「な、何のことだか、その、さっぱり……」
「ごまかし方が下手だよ」
表情を綻ばす今野宮。
どうも、僕のことは色々とお見通しのようだった。
「何で、わかるの?」
「わかるよ。だって、片垣くん、教室にいる間、よく神前さんのこと、見てるもん」
「そう、なんだ……」
「そうだよ。まあ、片垣くんが好きになるのもわかるよ。男子からも人気があるもんね」
今野宮は言うなり、何回もうなずく。
神前美穂は、僕や今野宮のクラスで委員長をしている。
大人びた顔つきとすらりとした背丈、男女分け隔てなく接するところから、人気が高い。また、たまにメガネをかけてるところから、僕としては知的な印象を受けて、好みだった。とはいっても、実際も成績は良く、最近あった中間テストでは、学年で一桁順位だった。いずれは生徒会長の呼び声も高いほどだ。
そんな彼女を僕が好きだとわかっていながら、今野宮はなぜ、告白してきたのだろうか。
「玉砕覚悟って言うのかな」
「玉砕?」
「そう。もう、無理だとわかってても、何もしないのは、いずれ後悔するかなあって」
「後悔か……」
「何? わたしの今の言葉で、神前さんに告白しようとか思った?」
「そ、そんな、僕が告白しても、多分ダメだから……」
「だよね。ダメってわかってるなら、何で、わたしの告白を断るのかなって、思うんだよね」
今野宮は声をこぼすなり、ため息をこぼした。僕としては、反応しづらいものがあった。だいたい、好きな人がいるのに、ダメだろうと思って告白しない。けど、他の子が僕にしてきたら、好きな人がいるという理由で断る。どこか中途半端な気持ちではないかと、自分を責めたくなってきた。
「まあ、片垣くんは、とりあえず付き合うみたいに、軽い男じゃないことだけはわかったから」
「いいの?」
「いいのいいの。逆にわたしの告白にオッケーしてきたら、ビンタでもしようと思ってたかな」
「本当に?」
「本当だよ。後、神前さんって、これまで、何十人の男子がアタックしてるけど、見事に撃沈してるみたいだね」
「だね。うん」
僕はこくりとうなずいた。
告白をできずにいる原因のひとつだ。
「それで何だけど」
「何?」
「実はわたし、神前さんに告白されたんだよね」
「えっ?」
僕ははじめ、言葉の意味がわからず、どう返事すればいいか困ってしまった。
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