第7話 どえらい目にあう

面接した次の日から出勤した。着替えを貰ったときに、着方がよく分からなくて困った。18歳と偽称していたのだけど実際は16歳だから、、、ネクタイの締め方すら知らない。

その時、僕は困り果てていたのだけど、たまたま着替え部屋に居合わせた「キョンキョン」というあだ名のキャバ嬢にネクタイを結んで貰った、、、ありがとうキョンキョン(涙)

キョンキョンは「まったくこの子は~、、」と呆れ顔になりながらも、結んでくれた。


キャバクラのボーイという仕事は、基本的に夕方から朝方まで、ずっと立ちっぱなしの仕事なのだが、初日は何が何やら分からないまま、あっという間に12時間が過ぎて終わったというより他ない。まーったく、記憶が消去している。


言われるがままに酒を運んでいただけで終わった。

大変だなあ、と思ったのは、店内の卓のみならず、「事柄」「客の属性」「客のオラつき度」などを細かく番号化してて、すばやくトランシーバーで連絡し合うこと。内容を客に悟られないようにする工夫だ。このコミュニケーションが難しく、全然出来る気が起こらず、軽くパニックになった。


僕は番号表をもらって、その日に全部暗記した。あとサービスのメニューとか料金体系とか、覚えられそうなものは全部暗記した。今思うと恥ずかしい。これは不安の裏返しだったのだ。そんなものは何の役にも立たないということは、その後、すぐに分かった。


初日に、すごく鮮明に覚えているのは、添田店長の歩き方だ。プロレスラーの武藤敬司みたいな、膝が故障した人ッぽい歩き方だった。やや、がに股気味に、のそーっと歩く。これがいやに迫力があるのである。


添田さんはトランシーバーで、裏部屋で、パントリーの中で、調理場で、レジで、客が見えない場所の至る所で店員を詰め倒していた。いや、後で分かったのだけど、非常にサービスに対して意識が高いだけだったのだが、最初はその常軌を逸している暴力感に、度肝を抜かされた。詰められると、こっちは黙るか、言い訳するか、、とにかくあれはキツイ。


「ちょっと来い」と裏部屋などに呼ばれて、「なんなのあの動き?」という風に詰められる。「すいません」も「言い訳」も「はい」も「ダンマリ」も、どんな態度でも、何を言ってもダメ。どの選択肢でも怒りが倍増。「徹底的にやるぞ、、」というような感じで延々と怒鳴られ、詰められるのだ。ターゲットになったら、オシマイである。

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