第6話  若いということ

兄のことを思い出して、急に生きる目的や、元気が湧いてきた。その感情を、なんと言葉にすればよいのか?


きっとどこかの街で兄は暮らしていて、自分もいっぱしの男として成長すれば、いつか会えるかも、、、という、想い募りだ。結局、それが根拠のない自信の源となった。僕と同じ名前をもった兄も、昔、同じように家を出たんだ。僕だって出来るはずがない。

どこで働くのかも、既に決めていた。絶対、中野の繁華街で働きたい!


住所不定の件は、すでに秘策を思いついていた。中野5丁目の住宅街に空き家があった。そこの住所に住んでいることにして履歴書を書いたのである。結果からいうと、全くバレなかった。その時は雇用って、ザルなんだなと思った。


中野の繁華街のど真ん中にあるGカンパニーという、老舗のキャバクラに直接電話して、店長に直談判したら、すんなり雇ってもらえた。面接のときに「君は稼ぐようになる気がするな」という言葉を頂いたことは、大切な思い出だ。

店長は添田という人で、元ガソリンスタンド店員からGカンパニーに入社して、1年で店長にのし上がった人だった。一回見たら絶対忘れない怖い顔をしていた。コメディアンの梅垣義明に似ているのだけど、あの顔より眼光をもっと鋭くしたような、、、。そして後ほどすぐに判明するのだが、人相通り、実際鬼のように恐ろしい人だった。


あらためて思うのは、こんな無理押しが通るほど、世の中甘くない。32歳の今、同じ事やれと言われても、絶対出来ないし許してもらえないだろう。なんで押し通ったのか?それは、なにより若かったからだと思う。「若い」ということはそれくらい、輝かしい価値があるのだ。頑張る子は、やりたいこと、やらしてもらえるし、不思議と大人も応援してくれる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る