第4話 小さな記憶の断片

男が一人ぼっちになると、ろくなことを考えないものだ。孤独は男の子には毒だ。泣いた日のことは憶えている。それから何日間か、どこを徘徊していたのか、何をしていたのか、きれいさっぱり記憶が飛んでいる。


心の支えは、目の前に広がる美しい東京の風景だけだった。ホームレス生活

で昼夜が逆転してしまい、夕日は朝日に、朝日は夕日に、感じられたものだ。こんな記憶がある。ある晴れた日に眼が覚めた。風が気持ちよく、死から蘇ったような気分だった。西新宿あたりの公園のベンチで寝ていたのである。

草木が生えっぱなしの汚い庭の景色だった。

顔を上げると都庁の立派の姿が眼に入った。それからまた眼を下ろすと、都会から取り残されたような狭い公園で寝ている自分がいる。掟で、ここから出ないように思われた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る