第3話
翌朝、俺は早く起きた。なぜかって?あの門がまた出てるか確認して、さっさとトンズラするために決まっているだろうが。俺は大きな期待と共にあの森のような場所へ向かったが、門はなかった。落ち込んだ気分で屋敷へ戻ると、そこにはなぜかメアリールが待ち構えていた。
「ヒロ、どんな魔法を見せてくれるのですか?」
「あ、えっと」
「お兄ちゃん!お兄ちゃん‼」
突然駆けてきたヒメに救われた。あぁ、やっぱり困ったときは神より妹だ。
「向こうにすごい大きな図書室があったよ」
「なに⁉」
「あのヒロ、魔法は...」
「悪いな、こっちが先だ。ヒメ、その図書室に直行するぞ!」
「分かった、ついてきて」
「おぉ!」
俺はヒメの案内の下、図書館へ向かった。これは、別に本が読みたかった訳じゃない。まぁ、読書はそれなりに好きだが。理由は2つ。一つは、メアリールから逃げるため。もう一つは、この世界についての情報を手に入れるためだ。本は、そういうことに関してなにかと便利だ。俺のマイコンピュータの方が速いが。
さすがお屋敷に並立しているだけあり、近所の私立図書館ぐらいの大きさだった。これはしばらく飽きなさそうだ。俺は、早速一冊めを手に取った。
数日の間、図書館に籠りきっていたら、メアリールがやって来た。
「叔父が心配しているので見に来たんですが、大丈夫ですか?」
「ん?何が?」
「いや、何日も籠りきりで、お体は大丈夫ですか?」
「別に、こんなの余裕。昔は1ヶ月くらい飯抜きだったこともあるし。ヒメはさっき、限界が来て寝ちまったけどな」
「なら、医務室に運んだ方が」
「いいよ、あいつ寝て起きたらケロッとしてるし、寝起き悪いし」
「そうですか。二人とも、ここで何をしていたんですか?」
「何って、読書に決まっているだろ。他に何がある?」
「普通、読書で籠りきりにはなりません」
「俺たちは普通じゃないんだよ。籠ることには慣れてるしな。まぁ、それでも、全部読むのは割と大変だったが」
「全部⁉何を言っているんですか?ここに何冊本があるか分かってますか?」
「25万4千200冊。読み始める前に数えた」
「それも驚きですが、そんな数、今日までに読みきれるはずが」
「まぁ、普通に考えればな」
俺は、置いてあった一冊の本を取る。そしてページをめくりながら解説してやろう。
「この図書館全体の蔵書はさっき言った通りだが、その中には、純文学やら図鑑やらいろいろ混ざっている。俺たちが読んでいたのは、主に、この国の歴史書や政治解説記録なんかだ」
「?なぜそれを」
「言ってなかったか?俺たちはすごく遠くから来たから、この国を何にも知らないんだよ」
ベージをめくる
「おまけにだ。今まで生活して分かったが、どうやら言語も違うらしい」
「でも、今私たちは話せていますよね?」
「あぁ、発声や、物質名称は同じだが、文字だけが違うんだ。不思議だがな。まぁ、文字だけでよかったよ。俺英語とか苦手だから」
「エイゴ?」
「とにかく、そんな何も知らない俺たちが、お勉強してたんだから文句言うなよ」
「やっぱり納得出来ません。あなたたちが独学をしていたとして、やはり、この短期間でそれらの書籍全ては無理なことです」
「あのな、俺とヒメの二人で、それぞれ一冊に5分かけたとすれば、余裕で計算が合うだろ」
「そんな。5分では、全てのページに目を通せたとしても、理解の時間がありません」
「そんな一般常識、理屈でしかない」
「え?」
「理屈ばっかで可能性消した生き方するもんじゃないぞ」
ページをめくる
「『本を読む』っていうのは基本的に、文字をとらえる。言葉として理解する。記憶する。意味を理解する。記憶する。を交互に繰り返し、さらにそこから『学習』するためには、最終的な記憶を知識として吸収することだ」
「はい」
「あくまでそれは基本の話だ。この手順、順番じゃないとダメって誰が決めた?」
「はい?」
ページをめくる。
「人が基本能力で5分間可能なのは、文字を認識することだけ。俺はそこから、記憶の過程をすっ飛ばし、意味を認識して知識として取り込める」
「そんなの、できるわけが」
「人間の脳構造的には、可能だぞ?ま、ヒメの場合はちょっと違うがな」
「違うとは?」
「こいつは文字の認識しかしてない。いや、多分文字としても認識できてないな。絵とか記号みたいな感じだ」
「それでは、内容理解が」
「できるんだよ」
ページをめくる。
「こいつは文字として認識しないかわりに、そのデザイン、濃淡、細部まで記憶できるんだ。で、一旦全部記憶してから、それぞれがどんな文字か、どんな言葉か、どんな意味かを考える。もしかしたら、今考えてる最中かもな」
「あなたたちは一体?」
「ただの旅人だよ。あ、そうだ。俺うそついてたんだ。まだ全部読んでない」
「やっぱり、うそでしたか」
「あぁ」
ページをめくる。
そして本を閉じる。
「これで全部」
「あなたは、魔法使いよりすごいですね」
「もしかして」
「はい。あなたが魔法使いではないことは、もう気づいていました。でも、魔法よりはるかにすごい力をあなたは持っていました」
「俺は平凡な男の子だよ。さ、帰ろうぜ」
俺は立ち上がり、寝ているヒメを背負う。
「はい。ソラ」
俺たちは並んで図書室を出ると、屋敷ヘ歩きだした。
ブラコンの妹とシスコンを認めたくない兄が異世界の扉を発見した結果 秋野シモン @akinoshimon
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